皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました
 そう言って笑むミレーヌの姿は、マーティンに似てなくもないな、とエドガーは思った。顔は似ていない。だけど、仕草がどことなく似ているのだ。これが兄妹というものなのだろうか。

「君にとっては当然のことかもしれないが、私にとっては命の恩人だ」
 エドガーは真面目な表情で伝えた。

「大げさですよ」
 やはりミレーヌは笑っている。どうしたらこの気持ちが伝わるのか、エドガーにとってはもどかしいところでもある。

「そうか、では行くとするか」
 エドガーは諦めた。諦めて、そっと手を差し出した。
 自然とエドガーが右手を差し出してきたので、ミレーヌも自分の左手を差し出すと、その手を取られた。

「今日は特に人が多いから、はぐれたら大変だ」
 と、エドガーが目尻に皺を刻んで言う。

「まるでお兄様みたいです」とミレーヌは笑う。「私が迷子にならないようにって」

 エドガーとしてはいささか複雑な心境になってしまった。それでも右手からはほのかに彼女の体温を感じることができたので、そこでまた顔をゆるめてしまった。

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