皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました
 マーティンがしれっと言う。事実。事実ではあるが、悲しい。だから、こんなにもむさ苦しい。やはり妹のミレーヌがこの場にいてくれたら、少しは華やいだのだろうか。明るくなったのだろうか、とも思っている。

「そういえば」と副隊長が口を開く。「さっき、恐ろしいモノを見ました」

「恐ろしいものだと?」
 眉間に皺を寄せたマーティンが尋ねた。恐ろしいものとは何か。これから駆除しに行かねばならないようなものなのか。

「はい」内緒ですよ、と副隊長が言うので、むさ苦しい男は三人顔を寄せ合う。

「笑顔のエドガー隊長……」

 ヒヤっと冷たい汗が背中を流れた。駆除の対象ではないが、笑えないくらいの恐ろしいものだ。

「それは、怖い。あの、エドガーが笑顔だと?」
 マーティンが真顔で聞き返す。

「はい」
 副隊長は、嘘はついていません、と言うようにしっかりと力強く頷く。
「しかも、とても素敵な女性を連れていました。あのエドガー隊長が、女性と手をつないで歩き、笑っていたんです。怖くないですか?」
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