年下イケメンホテル王は甘え上手でいじわるで
「りこねえ、りこねえ」
 隣に住む五つ年下の男の子、嵐。名前は凛々しいのに、顔も女の子みたいで甘えん坊で泣き虫。一人っ子だった私はそんな嵐を本当の弟のようにかわいがっていた。
「許せない! りこねえちゃんに任せて!」
 嵐がいじめられて帰ってきたらとんでいっていじめっこたちに仕返しをした。
「りこねえちゃん、ずっとぼくのそばにいてくれる?」
「もちろん、ずっとずっとそばにいる」
「いつまで?」
「いつまでも。一生」
 嵐はにこっと笑ってみせた。そのかわいらしいこと。
 私はもっと強くなろうと空手、柔道、剣術、ボクシング習えるものは何でも習った。
 だけど、嵐が小学一年生になる年に、突然、嵐はいなくなった。嵐のお父さんの会社が倒産して夜逃げしたのだった。せっかく、同じ小学校に通えるはずだったのにね。私が六年生で嵐が一年生。ちゃんと守ってあげられたのにね。
 ちょっとからかわれたくらいで涙目になってしまう嵐、やさしくて困っている人がいるとほうっておけない嵐、笑顔がとびきりすてきな嵐、嵐、嵐・・・
 元気にしてる? 笑ってる? りこねえは、きみのことが心配だよ・・・


 三十歳になった私、滝田りこは、沖縄空港に降り立つと思い切りのびをした。東京から沖縄まで三時間、じっと座っていると体がなまってしまいそうだ。のびをしたついでに、シュッシュッとパンチする。やっぱり私は体を動かしているのが性にあっている。今の仕事はボディガード。本当はSP、セキュリティポリスになるのが夢だったのだけど、身長160センチに届かずあえなく断念した。
 今回の警備は、沖縄県を拠点とするリゾートホテルの若き経営者、桜庭ジンだ。今回の依頼をうけ、彼のことを調べたが、コロナウイルスで窮地に追いやられたホテルを買い取り、ソーシャルディスタンスの確立された高級プライベートリゾートホテルに建て直し大成功。この界隈ではちょっとした有名人らしい。『リゾートホテルのプリンス』だの『華麗なるホテル王』など、輝かしいキャッチコピーにふさわしい眉目秀麗な男性だった。しかしどことなく冷酷さを感じさせる顔立ち。女の噂もたえないようだ。
「私は苦手かも」
< 1 / 68 >

この作品をシェア

pagetop