年下イケメンホテル王は甘え上手でいじわるで
 肩をすくめるとタクシーに乗り込んで、行き先をつげた。私のタイプは、そうだなあ、ふわふわの栗毛の髪に柔らかい瞳、ちょっと自信なさげで私が守ってあげなきゃいけないような・・・とそこまで考えて思わずくすりと笑った。嵐はどんな大人になったんだろう。かわいい子だったから、きっとかわいい男の子になったんだろうな。
 真っ白で洗練されたホテルの広々としたフロントで私が名前を告げると、「お待ちしておりました」と背の高いホテルマンが颯爽と私の荷物を受け取りにやってきた。マスクをしているため顔の全容は分からないが、いかにも沖縄出身といったはっきりした二重の濃い瞳が印象的だ。
「結構よ、自分で持てます」
 まだ正式に採用されたわけではなく、今日は面接だ。日帰りするつもりで、荷物は必要最低限。持たせるようなものは何もない。
「ご案内いたします」
 ホテルマンがうやうやしくエレベーターを開き、最上階のボタンを押した。エレベーターは途中で止まることなくまっすぐと上に向かっていく。ホテルマンがボタンの前においている体を少し動かし、私の神経がぴっととがった。最初からだが、このホテルマンにはあまりいい印象がない。にこやかに、丁寧に接しながらも、どこか私を値踏みするような遠慮のない視線。
 ポーン
 到着を知らせる音がエレベーターに響き、開くボタンを押したホテルマンがマスクをずらして振り返る。
「・・・面接後のご予定はございますか?」
 マスクをとってもほとんどイメージは変わらない、日本人だけれどどこか海外の血が混ざっているような濃い整った顔立ち。確かにモテそうではある。だけど・・・
「なぜあなたに教えなければならないの」
「いえ・・・よろしければ、沖縄をご案内して差し上げようかと思いまして・・・」
「結構よ」
 よほど自分に自信があるのか。私はかまわずエレベーターを降りようと足を踏み出した。瞬間、彼が長い腕をのばし、開いたエレベーターのドアを押すような形で私の行く手を阻んだ。
「壁ドンならず、エレベータードンとは新しいわね」
「僕と、美味しい沖縄料理を楽しみませんか?」
 私は素早くかがむと男の腕をすりぬけて、約束の部屋へ向かおうとした。
「ちょ、ちょっとお待ちくだ・・・」
 ホテルマンが私の腕をつかんだ。はい、アウト。私はその手をつかみ返すと一気にねじり上げた。
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