年下イケメンホテル王は甘え上手でいじわるで
「・・・正直、分かんないんだよ。好きとか嫌いとか・・・。恋愛経験も少ないし・・・」
「じゃあさ、嵐とキスできる?!」
「キ、キス?!」
「想像してみて。もしキスできたなら、それはもう好きってことなの」
 まるでドラマの台本の台詞のようにドラマチックに彼女は言い放った。出会ったその日に、キスはもうすでにしているのだ。そして嫌ではなかった、それどころかむしろ・・・
「嵐はさ、すごく苦労してるの。お父さんが勤めていた会社が倒産したんだけど、その少し前にお父さん、会社が借りたお金の保証人になってたの。だからもう夜逃げしかなくて・・・それから生活を立て直すのにも時間がかかったし・・・それに耐えられなくて、お母さんは蒸発しちゃった。すごくいいお母さんだったんだけどね。それくらい生活がきつかったのかもしれない」
 私の知らない社長の空白の時間・・・。幼かったころの嵐を思い出して胸がぎゅうっと苦しくなる。あんなに無垢で弱かった嵐にとってどれだけつらかったことか。
「それでも嵐が強く生きてこられたのは、たぶん、りこねえちゃんの存在があったからだよ。高校生になって嵐と再会したときに言ってたの。『りこねえちゃんが心の支えなんだ』って。私も、りこねえちゃんのことはかっこいいお姉ちゃんってすごく記憶に残ってたから、なんだか妙に納得したんだよね。ああ、嵐がこんなに強くなったのはきっとりこねえちゃんのおかげなんだなあって」
 あおいちゃんの言葉の一つ一つが乾いたアスファルトに落ちる雨のように私の心を湿らせていく。ああ・・・嵐、嵐、嵐・・・。私はなんてひどいことをいったんだろう。自分が傷つきたくないという卑怯な理由だけで。私が嵐のことをずっと忘れられなかったように、嵐も私のことをずっと覚えていて、しかもそれを大切にしてくれていたのだ。
「どうしよう、あおいちゃん・・・私、今、社長に会いたい・・・」
 私は顔を両手で覆って言った。そう、私は間違いなく、彼のことが、好きなのだ。
「あはっ、よかった」
 あおいちゃんはその細い綺麗なうでで私の肩をぎゅっと抱いてくれた。
「りこねえちゃん、恋愛で一番大事なことはね、素直になることだよ」
 私はあおいちゃんの腕にそっと自分の手を置いた。
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