年下イケメンホテル王は甘え上手でいじわるで
 売れっ子女優の八神桃花のあおいちゃんは、マネージャーから電話がきて、すぐにホテルを出ていった。手を振って部屋をあとにする姿はあのころのあおいちゃんの面影が確かにあって、私はセンチメンタルな気持ちになる。
 もしも、あのとき、会社が倒産なんてしなければ、嵐はずっと私のそばで大きくなったのかな。他の女なんて見ることなく、私だけを見て育ってくれたのかな。一度認めてしまった好きという気持ちは、女の嫌な部分を凝縮したような感情まで解放してしまう。
 その時、部屋がノックされた。ドキリと心臓がはねる。きっと社長だ。私は、そっと扉を開けた。
「桃花が帰ったって聞いて来たんだけど」
「あ、はい」
 好きだと認識してしまったからまるでうぶな女子中学生になったかのように社長の顔を見ることができない。私は心とは裏腹にそっけなく答えてしまった。
「大丈夫だった? あいつ、強引だから」
「大丈夫です」
 あおいちゃんだったんですね! とか言いたいことはたくさんあるのに、やっぱり口から出たのは愛想のない言葉で、私は自分自身にがっかりする。
「・・・そっか、付き合ってくれてありがと。まだぼく、仕事があるからいくね」
 てっきり強引に部屋に押し入ってくると期待していたのに、社長は入り口でそう言って方向転換した。
「あっ、あの」
 私はとっさに彼のスーツの袖をつかんでいた。
「ん?」
 社長が振り返る。ふわり、といい香りがして、私はくらくらした。
「あの、ボディーガードの仕事は・・・」
「大丈夫、もともと一週間はお休みの予定だったから。今日もオフだと思って。桃花に付き合わせたのは悪かったけど」
「そうですか・・・」
 少しの沈黙が流れる。私の手は社長のスーツをつかんだままだ。これが私の精一杯のアピールだった。
「・・・今日、飲みに行く?」
 社長が口を開いた。
「えっ」
 私が顔をあげると「ほら、またゴウの店とかさ・・・」と口ごもるように社長が言った。
「行きます!」
 自然に口元がゆるんで、考えることなく即座に答えていた。
「じゃ、あとで迎えにくるから」
と、社長は軽くほほえんでエレベーターのほうへ歩いていった。でもどことなく元気がないような気がした。疲れているのだろうか。
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