年下イケメンホテル王は甘え上手でいじわるで
「あ・・・嵐のはじめてが・・・欲しかったよぉ」
 嵐の視線を避けるように私は両手で顔をおおう。またじわり、と涙腺がゆるんだ。嵐と再会してから私は強くてかっこいい嵐の理想の自分とはかけ離れてしまっている。ダサくてみっともなくて、自分自身が情けなかった。
 嵐が私の手を優しくほどく。そして唇をそっと合わせてきた。
「過去はあげられないけど、未来は全部、りこねえにあげるから。これから、ぼくのはじめて、たくさんもらってよ」
 甘くて少しだけかすれた声で嵐はそう言った。長いまつげの下の物憂げな瞳。愛しい気持ちが涙とともにあふれ出た。私が何か言う間も与えず、嵐が再びキスをする。深くて優しくて甘くて、そして、ゴーヤの苦みがのちょっとだけ残って、私はこの人と並んでいても恥ずかしくない自分になろうと決意した。


 今日はパラディースリゾートホテルの創立5周年パーティーだ。ホテルの一番広いパーティー会場を貸し切って、社員や取引先、そしてその家族が集まっている。シャンデリアに照らされた室内は美しい花が飾られ、たくさんの料理やお酒が並んでいる。みなきらびやかな服装で、立食したり会話したりと楽しんでいた。私はこの日のために、髪型も変え、メイクも勉強し、嵐に見立ててもらったドレスと高いヒールを身につけてこの場にいたけれども、知り合いもいないこの場所でいたたまれず、会場の隅に目立たないように立っていた。嵐は今日の主役らしく忙しそうに挨拶をしてまわっている。横には着飾った永井さんがぴったりとついていた。
 私は腕につけてきたブレスレットを触った。嵐がくれたシーグラスをブレスレットにしたのだ。触っていると少し気持ちが落ち着いてくる。
「はじめまして」
 声をかけられているのが自分だと言うことに気づくまでに数秒の時間を要した。
「あっ、す、すみません。はじめまして」
「私、大野と申します」
 優しそうな雰囲気の男性から差し出される名刺を受け取り、
「ごめんない、私、名詞とか持ってなくて。滝田りこと申します」
と慌てて言う。
「あ、いいんですいいんです。私、こちらのホテルと提携している花屋です。裏に地図がありますから、是非お花がご入り用の際はお立ち寄りください」
 こうやって私なんかにも名詞を渡して営業しているなんて仕事熱心な人なんだなと私は好感を持った。
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