年下イケメンホテル王は甘え上手でいじわるで
 ふっと私は目を開けた。見覚えのない天井が視界に入る。
「りこねえっ」
 横を見ると、嵐が泣きそうな顔で私をのぞき込んでいた。
「嵐・・・」
「よかった・・・」
 嵐が私の手を握りしめる。
「車にはねられて、それから病院に運ばれたんだけど、それから一日目を覚まさないから・・・」
「あの男の子は?」
「大丈夫、無事だよ」
 私は大きく息をついた。本当によかった。それから、
「ずっとそばにいてくれたの?」
と疲弊した顔をしている嵐に聞く。寝不足だったのにさらに、私の付き添いもしていたのでは嵐のほうが病気になってしまう。正反対に私の頭はすっきりしていた。
「りこねえがいなくなったらどうしようって思った・・・」
 ぱた・・・と私の手に水滴が落ちる。私はびっくりして嵐の顔を見た。嵐は握っている手とは別の手で目頭を押さえていた。
「嵐・・・」
「もう絶対、ぼくから離れないで・・・」
 私は嵐の手にそっと自分の手を重ねた。私が死んだら、嵐が悲しんでしまう。ふるえる子犬のような小さな嵐と今の嵐が重なる。
「ごめんね」
 もうあまり無茶はしないでおこう。私は嵐に小さく謝った。

 私をひいた犯人の彼女は、警察に逮捕されたらしい。沖縄では結構なニュースとして取り上げられていたので、病室でテレビをつけたときには驚いた。
 私は奇跡的に複数カ所の打撲のみで済んだのだが、この事件のあとから、すっかり嵐は私に過保護になってしまった。極力一人で外出することを禁じられ、やむなく出かけるときはどこに出かけるか逐一連絡しなければならないし、防犯ブザーやGPS付きキーホルダーなども持たされている。結婚したら、仕事もしたかったのだけど、護衛の仕事は危険すぎるからということで絶対禁止、スポーツジムのトレーナーはどうかと打診したが、男の目に晒されるからと許してもらえなかった。
 かちゃり、とドアの音が聞こえ、私は小走りで玄関に行く。
「おかえりなさい、嵐」
「ただいま」
 嵐がとびっきりの笑顔を私に向ける。胸の奥がきゅうっと苦しくなる。私たちは退院したその日に入籍届を出して、嵐の家で一緒に暮らしている。「片時も離れたくないから」という嵐の強い希望からだった。
 嵐がぎゅっと私を抱きしめる。玄関の段差でちょうどいい身長差になって、私はこのただいまのハグが好きだった。
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