君との恋の物語-Blue Ribbon-

カフェモカ

大学生活がスタートし、ガイダンスがひと段落すると、私はすぐに学校の周りを散策した。
学校の近くにお洒落なカフェをみつけた。
店内は落ち着いた雰囲気で、BGMの音量も、室温もいい感じ。
私は、少し甘いのが飲みたかったのでカフェモカを注文した。
いつか、恒星君ともここでコーヒーが飲めたらいいな。
あれから、恒星君とは学校ですれ違う程度。あんまりガツガツしてると思われたくないので、ちょっと遠巻きに様子を見ている感じ。
と言っても、私も練習に集中したいから、いつでも探してるっていうのとはちょっと違う。姿を見たら、少し目で追うくらいかな?

どうやら友達はできたみたいだけど、どうにも集中し切れてないみたいに思える。なんとなくだけど。私の思い過ごしかな?



ある日の朝、小山駅で乗り換えの電車を待っていると、なんと恒星君の姿が!
これは偶然!
私は、早速話しかけようと近付いて行った。

おっとこれは。。
近付いてみると、なにやら思い詰めたような表情だった。。って言うか、怒ってる?
まぁいいわ、出たとこ勝負よ!!
「おはよう!」
やっぱり上の空。。
自分に向けられた挨拶だってわかってなかったみたい。大丈夫かしら?
『お、おはよう』
口調もちょっと怪しい。
うーん。。
「恒星君?大丈夫?」
『あぁ、うん』
全然大丈夫じゃなさそうだけど。
「ねぇ、顔色悪いよ?」
本当に顔色が悪い。
そして答えない。
「ちょっと、大丈夫?」
反応がなさすぎて心配になったので、肩に触れながら聞いた。
『ごめん、大丈夫。考え事してた』
考え事ってレベルじゃないわ。まさか…?
「ねぇ、学校行ける?顔色悪いよ?」
するとまた考え込んでしまったみたい。
目はこちらを向いてるけど私の事が全然見えてないみたい。
「恒星君?大丈夫?」
ちょっと!大丈夫?
両肩に手を乗せてみた。
でも、全然だめ。
それなら、最終手段よ!
「ねぇ!恒星君!!」
私は、恒星君の両頬に手を当てて無理矢理こちらを見せるように顔を正面に持っていった。
やっと意識を取り戻したみたいな顔になった。

あ、やばい。
周りの人が皆こっちを見てる。。
私は、咄嗟に恒星君の手を取って走り出した!
少し離れたところから電車に飛び乗る。
やばい。咄嗟とは言え、手を握っちゃった!

電車に乗ると、大分生気を取り戻したみたい。
さっと手を引っ込められた。
「あ、ごめんね。」
『いや、こちらこそごめん。』
彼はそのまま続けた。
『人の声が聞こえなくなる程考え込んだのは初めてだった。恥ずかしいところを見せてしまって悪かった。』
首を横に振って答えた。だって別に、恒星君は悪い事してないもんね。
「いいの。むしろ私でよかったわ。私って、なぜか変なところで肝が据わってるっていうか。だから、驚きはするけど全然動じないの。そんなことより、大丈夫?少しは落ちついた?」
全て本心だった。それにしても誰よ?彼をこんなふうにしたのは。
まぁ、一人しかいないか。
『今は、大丈夫。ありがとう。』
口では大丈夫と言ってるし、さっきよりはマシな顔だけど、やっぱり心配だった。
「ねぇ、この後、何限から授業?」
ここは思い切って。
『二限からだけど』
誘った方がいいわね。
「お茶しない?学校の近くにいいお店見つけたの!」
美味しいコーヒーでも飲んで、気が済むまで話してくれればいいのよ!
『いや、授業は。。』
「大丈夫!履修確定までまだ時間あるし、ってことは今日はそこまで本格的な内容には入らないはずじゃない?サボるなら今よ!」
彼は、まだ迷ってるみたいだった。
もう一押し!
「ね、いきましょ?」



結果、ついてきてくれた。
多分、1人でいると考え込んじゃうからだと思う。
いいわ。今日は気が済むまで付き合うわよ!
せっかくだから、この間見つけたお店に行くことにした。
「このお店なら何飲んでも美味しいわ。恒星君は、コーヒー大丈夫?」
『うん、大丈夫。カフェモカにしようかな。』
あら、
「奇遇ね、私と同じ」
今は、私からはあんまり話さない方がいいわね。
彼には、余計な言葉はかけないほうがいいと思った。




















「恒星君?」
『ごめん、また考え込んでしまった』
軽く微笑んでみた。
「気にしなくていいけど、多分、話した方がスッキリするよ?」
また迷ってるみたい。ここは、声を掛けずに待つ。
『実はな。。』
そう言って全てを話してくれた。
なんでも、彼女さんとの2年の記念日を迎えたばかりで、どうしてもその記念日に特別なプレゼントをしたくて半年以上も時間をかけて準備してきたこと。
大学に入る前からお互いにバイトを始めて忙しくしてきたこと。その中でも二人で頑張ってきたこと。
彼女のバイト先に変な男がいて、彼女にしつこくメールしてきているらしいこと。
店長に相談するように促したにも関わらず中々動き出さなかった彼女。何よそれ。自分のことくらい自分でなんとかしなさいよ。
そして、恒星君が1番気にしていたのは、その変な男のせいで頑張って用意してきた半年間、いえ、彼女と一緒に過ごしてきた二年間が崩れてしまうんじゃないかってことだった。もっともよね。
「うーん、なんていうか、恒星君て優しいのね。」
なんとかそれだけ言った。本当はその彼女への敵対心ですっごいイライラしてたけど。
なんで相談することすらできない訳?その男が悪いことしてるんだから別にいいじゃない。
「人一人が抱えられるものの大きさなんて、たかがしれていると思うのよ。でも、恒星君は彼女の分まで持ってあげてるのね」
優しすぎると思うわ。少なくとも、その彼女に彼の優しさは大きすぎる。
恒星君も心配してるみたいだった。彼女がどんどん自分に依存していくんじゃないかって。本当、その通りね。
『そんなことはないよ。やってみようとしてるけど、できてはいない』
彼の目を真っ直ぐに見据えて言う。こんなことで恒星君に自信を無くして欲しくない。
「大事なのは、できているかどうかじゃなくて、やろうとしてあげることじゃない?」
っていうか、できてるのよ。その女が駄目なのよ。
『どうだろう、わからない。やろうとしていてもできてないし、結局二人とも苦しくなっているし』
「苦しいのは、結果に繋がっていないと思うからでしょう?彼女さんだって、きっと恒星君の優しさに感謝してるよ。多分だけど、彼女もどうしていいかわからなかったんだよ」
同じ女として、その気持ちはわからなくはない。
「バイト始めて間もないし、下手に店長なんかに相談して、変な噂になるのが怖かったんじゃない?悪いのはもちろんその男だけど、場合によってはその人を追い出すことになるかもしれないし、そう言うのって、女同士の中では結構難しいのよ。」
それにしてもその女はなにもしなさ過ぎだけどね!
「私は恒星君と知り合って間もないからよく知らないけど、初めて会った時から、あなたはとても器の大きな人に見えたわ。でも、さっき言った通り、人一人が抱えていられるものの大きさなんてたかが知れているのよ。同い年なんだしね。だから、どんなに恒星君が優しくても、大きく見えても、甘えすぎないようにしなきゃいけないと思うわ。いくら自分がいっぱいいっぱいでもね。」
かなり頑張って言葉を選んだ。
「まぁでも、バイト先のことは解決したわけでしょ?だったら、そろそろ恒星君も本音を言っていいんじゃない?今なら、落ち着いて話せるでしょ?」
内容はさておくとしても、最初に本音を聞けてよかったわ。
『ありがとう、だいぶ落ち着いた。』
「気にしないで!その代わり、もう少し付き合ってくれない?」
私、その女のために恒星君を誘った訳じゃないから!

店を出てしばらく歩くと、広い川幅の土手についた。
ゆっくり話をするなら、こう言うところの方がいい。
「私ね、散歩が好きなの。さっきみたいにお店で話すのも好きだけど、こういう人のいないところをゆっくり歩きながらだと、結構いろんな話ができるのよね。」
すると、恒星君の口から意外な言葉が
『そうか、彼氏ともよく散歩するのか?』
おかしいわね。彼氏なんて、ずっといないのに。
「私、彼氏はいないの!散歩も、結構久しぶりなんだ」
『それは、ごめん、てっきりいるものだと思っていた』
ん?それって。。
「あ、全然大丈夫!別れたのはもう随分前だから、っていうか、なんで私に彼氏がいるって思ったの??」
足を止めて彼の顔を覗き込む。せっかく二人きりなんだもん、よく顔を見せて。


「私、そんなに可愛い??」

『まぁ、峰岸さんを初めて見た人は誰もが彼氏がいると思うくらいには。。』
ほぅ。そんなふうに見ててくれたのね?
でも、ちゃんと言ってね!
「くらいには?」
『可愛い、んじゃ、ないかな』
照れてるの?かわいいね!
「ありがと!ねぇ、そう言えば名前!」
もうこんなチャンスはないかもしれないからね。
「そろそろ私のこと、結って呼んでよ」
ねぇ?恒星君!
『あぁ、でも呼び捨てってわけはいかないし、慣れないから』
「じゃぁ、結ちゃんって呼んで!」
そう言って先に歩き出した。答える隙を与えなかった。
「どうしたのー?」
『あ、ごめん、』
そう言って歩き出した。
私の勝ちねw
「ねぇ、恒星君」
『え?何?』
「たまにでいいから、こうやって一緒に散歩してくれる?」
本当は、いつも一緒にいたいけど。
『あぁ、たまにはな。』
たまには、か。自分で言ったのに、ちょっと切なかった。
「いいな、彼女さん」
聞こえないくらい小さな声で言った。
『ごめん、よく聞こえなかった、何?』
「んん、なんでもないよ!恒星君て、やっぱり優しいね!」
いつか、あなたの彼女を名乗りたいわ。
「そろそろ、戻る?」
『そうだな。』
あら?浮かない顔
「また来ようね」
『うん』
寂しそうね。。








午後からは普通に授業に出た。
もちろん練習も目一杯やった。今日は練習部屋も空いていたので、21時頃までガッツリ練習できた。
6月にはAブラスのオーディション課題の発表があるし、7月には初めての演奏試験もある。今のうちにできることを沢山して、基礎力を上げたかった。
21時ともなると、流石に残っている学生は少ない。恒星君も、今日はバイトだと言っていた。
電車に乗って、今日の出来事を反芻する。
うーん…私が思うに、恒星君たちは、別れた方がいいんじゃないかと思う。
これは、私が恒星君のことを好きだからっていうのを無しにしても思う。
私は彼女さんのことは何も知らないけど、彼女は恋愛に依存するタイプだと思う。対して恒星君は、なんでも一人でできるタイプ。むしろ人より多くのことを同時にできてしまうタイプ。だからこそ彼女も依存したのかもしれないけど、それじゃ駄目だと思う。
恒星君みたいな人の彼女こそ、自立したタイプじゃないと。お互いにやりたいことややるべきことがちゃんとわかっていてそれを自分だけの力でできる人じゃなきゃ。その上でお互いのことを好きでいられると言うことが1番大事なのよ。何かに一生懸命な人ってやっぱり魅力的でしょ?
私、今までは恒星君と彼女さんに「別れてほしい」とは思ってなかったけど、今は思ってる。私と付き合うことにならなくてもいい、でも、恒星君の邪魔はしないでほしいと思う。
私なら、彼のことを支えていけると思うんだけどなぁ。。

まぁ、ここから先は考えてもしょうがないわ!恒星君がまた話したくなったら話せばいいわね。


その機会は意外なほど早くにきた。

次の日私は、朝から練習のために学校にいた。
午前中はガッツリ練習して、午後は少し学生が増える時間だけ外に出て、また学校に戻った。すると、たまたま本館の入り口で恒星君に会った。
「お疲れ様!今日も練習?」
ん?また元気ないの?
『うん、今日は15時くらいには上がるけど。』
体調悪いの?隈がひどい。
「そっか、頑張ってね!」
なんだか聞きにくい雰囲気だったので、それで行こうとすると
『あ、峰岸さん!』
まだ名前では呼んでくれない。まぁいいけど
振り返ると
『今日、よかったら一緒に帰らない?』
なんと!意外。彼の方から誘ってくれるなんて。。
「うん!いいよ!15時過ぎに正門でいい?」
『うん、ありがとう。』
なんだか意外な展開。。


15時に正門に着くと、彼はもう着ていた。
『急にごめん。ちょっと話したいことがあって。少し、時間ある?』
「うん、いいよ!この間のお店行く?」

喫茶店に着くと、彼はまたカフェモカを注文した。
私も同じものを注文する。
『昨日はたくさん話を聞いてくれてありがとう。』
「んん、全然大丈夫だよ!」
彼は少し気まずそうに続ける。
『あんなに話を聞いてくれたのに申し訳ないんだけど、昨日、さぎりとは別れた。』

はい?

「え?そうなの?なんで…」

意外すぎてこれしか言えなかった。。ちょっと、いやだいぶ混乱していた。。


『昨日、峰岸さんが言ってくれたことは、俺もどこかで思っていたことだと思うんだ。さぎり、あ、元カノね。は、昨日も俺に会いたいと言って、いや会うのは全然よかったんだけど、また好きだと言ってくれとか、離さないでほしいとかそういうことを言われて、なんだか虚しくなった。それで、抑えきれなくなって思っていることを全部言ってしまったんだ。辛いのはわかるけど、自分は何かしようとしたのかって。それに、昨日は言わなかったんだけど。。』
ここから先の話は本当に酷かった。。
『さぎりの悩む姿を見かねた男友達が彼氏のフリをしてその男を追い払ったらしい。しかも、さぎりが店長に相談したのは、その友達が例の男を追い払った後だったみたいなんだ。俺も珍しく結構怒っていたけど、さぎりも限界だったんだろうな、その男友達みたいに優しくしてくれないのかって言われ…』
「なによそれ!!そんなのおかしいわ!!」
言ってからハッとなった。。
「あ、ごめん」
『いや、いいんだ。それで、流石にその友達と比べられたら俺も耐えられなかった。俺だってさぎりを思って手を出さずにいたのに、その考えも聞かずに優しくないなんて、ちょっと自分勝手すぎると思った。俺のフリをした男も、学生同士の問題を放置していたバイト先の店長も、何もしなかったさぎりも、全部どうでも良くなったんだ。だから、別れた。』
悔しかった。
「何よ、それ」
涙が溢れた。
「勝手すぎるじゃない。」
なんで誰よりも人のことを考えて、毎日練習だってバイトだって忙しくても頑張ってきた恒星君だけがこんな目にあうのよ。。
『俺もそう思う。でも、もういいんだ。俺も、もうちょっとさぎりとちゃんと話すことだってできたんだ。できたのにやらなかった。結果、それがさぎりが求めるものと違っていただけだ。しょうがないよ。』
恒星君は、少しだけスッキリしたような、寂しそうな顔をしていた。
「恒星君は、本当にそれでいいの?」
『うん。これでいい。正直、少しスッキリもしているから。寂しいけど、Aブラスのオーディションに全力で打ち込むことにした。本気で獲りに行こうと思ってる。』
「恒星君。。」
『ん?』
あなたは
「あなたは、本当に強いのね。あなたは絶対合格するわ。私も同じ受ける立場だけど、応援するわ」
『ありがとう。お互い頑張ろう。』


今日はこのまま一緒に帰ることになった。
『結さん、この間も、今日も、沢山話を聞いてくれてありがとう。これから、演奏試験やオーディションに向けてどんどん忙しくなると思う。でも、この間約束した通り、たまには一緒に散歩したい。俺からも改めて聞くけど、たまには付き合ってくれるかい?』
な!名前。。ずるいな、ちょっとドキッとしたじゃない。
「もちろんよ!たまにはお茶したり散歩したりしましょ!それと」
これはちゃんと言っておきたい。
「名前で呼んでくれてありがと!」
いつもみたいに、彼の顔を覗き込んだ。
あれ?
『いや、こちらこそ。これからもよろしくお願いします。』
そう言って堂々と真っ直ぐに私の目を見て右手を差し出す。
照れないの?っていうか、すごい貫禄。。
なんだかドキドキを通り越して少し緊張するわ。。
「はい、よろしくお願いします。」
私も右手を差し出す。なんだか告白みたいになってるw
すっごい緊張するけど、このまま抱きしめたい衝動にも駆られる。。w
本当に素敵な人ね!



家に帰ると、今日の出来事を振り返ってみた。
なんだか、すごく長い1日だったわ。
思い返してみても、あの二人は別れて正解だったと思う。
私は恒星君の味方だから、どうしても元彼女が悪いと思てしまうけど、多分、単純に相性が悪い。まぁでも、もういいの。別れたんだから。例えば、それで恒星君が傷ついたり後悔しているなら話は別だけど、そうじゃないみたいだし。私は、これで心置きなく彼を誘えるから。
でもまぁ、優先順位を間違えないようにしなきゃね。彼は今、集中したいだろうし、私も集中したいから。
まずは演奏試験。それから、次がAブラス。この二つで、絶対結果を残したい!!
< 2 / 18 >

この作品をシェア

pagetop