君との恋の物語-Blue Ribbon-

青いリボン

『お疲れ様!』
「お疲れ様!」
私は今、恒星君と夕飯を食べにきている。
場所は、いつものカフェだ。ここでご飯を食べるのは初めてだ。
『初めての試験、どうだった?』
そう、私達は今日、初めての演奏試験を終えたのだ。
結果は。。
「まぁまぁかな。。」
反省点はいっぱいある。緊張からの細かいミスとか。。
でも、全体としては自分らしい演奏ができたとは思っている。
「恒星君は?」
彼は、いつもと変わらない表情で答える。
『うん。まぁまぁかな。』
そう言って、二人同じタイミングで吹き出した。なんか、雰囲気いいかも。
「初めての試験でまぁまぁって言えたら、良い方かもね!」
次は、もっと頑張るけど。
『そうかもな。次はオーディションか。それが終わったら年末にはAブラスの本番。年明けにはまた後期の演奏試験か。いいな。充実してる。』
なんだろ、恒星君って、未来のこととか、夢を語っている時が一番貫禄がある。
Aブラスにももう受かるつもりで考えてるところからも堂々としてて、自信に満ちていることがわかる。
すごく、素敵。
『ん?なに?』
え?
「あ、んん、なんでもない!」
かっこいいな。。すっごく。
なんかもう、目が合っただけですっごいドキドキしてる。。
『ん?なんだ、顔赤いよ?大丈夫か?』
やばっ
「だ、大丈夫!本当。うん。」
なんとかこれだけ言った。
『そうか、ならいいけど。』

「…恒星君って、かっこいいね。」
あ。。
『え?なんだよ急に!』
しまった!口に出てしまった!
やばい、顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。。
だと思ったら、恒星君も赤くなってる。
なんだかちょっと安心した。笑
「ごめん、でも、本当に、そう思うから。。」
言いながら俯いた。
恐る恐る恒星君の顔を見てみると、照れたような表情で顔を赤くしてる。
なんだか、かわいいな。かわいくて、ずるい。
『あ、ありがとう。。』
あんまり可愛いので、急にちょっとからかってみたくなった笑
「それだけー?私は?」
ちょっとやりすぎかな。。?
『え、えっと、かわいいよ。すっごく。』
お?なんかいいかも。この感じ。笑
「ありがと!ねぇ、かわいいって、どのくらい??」
元カノさんより?とはさすがに聞かなかった。
『そうだな、えっと、ご飯誘われて、浮かれてしまうくらいには。』
嬉しい。誘ってよかった。
「よかった!じゃぁこれからも誘うね!でも、たまには恒星君からも誘ってね!」
『ん?うん、いいのか?誘っても。』
え?どういうこと?
「なんで?いいじゃない、誘っちゃいけないなんて、そんなことある?」
『まぁ、そうだよな。うん。それなら、えっと』
珍しい。言い淀んでる。
私は次の言葉を待った。
『えっと、夏休みになったら、海を見に行かない?俺、もうすぐ免許取れるし。』
え?海?免許?
私はいきなり入ってきた情報に一瞬パニックになった。
でもさらに一瞬後には嬉しさが込み上げる。
だって海だよ?ドライブだよ?
「え?いいの?もちろん、私でよければ一緒に行きたい!っていうか、免許なんて、いつの間に!」

『え!?いいの?本当に??』
目がまんまる笑
そんなに意外?笑
「あれ?ひょっとして、私の水着姿が見たい、とか?」
超悪戯っ子の表情でちょっとだけ挑発してみた。
『い、いや、それはないよ!飽くまで海を見るだけ!』
ちょーかわいい笑
「冗談よ!私、水着なんてもってないし!」
そう言って二人とも笑った。
最高に幸せな時間だわ。
『いや、実はね、演奏試験は終わっても、まだ休み明けにオーディションもあるから、ちょっと頭を切り替えたいんだ。だから、なんていうか、1日思いっきり遊ぶ日を作って、そこを目標に頑張る。みたいにしたいと思ってるんだ。』
うんうん。
「恒星君らしいね。すごくいいと思う。」
『ありがとう、じゃ、その日は、一日付き合ってください。』
まったく、律儀ね。
「うん!楽しみにしとく!その代わり、私からも一つお願いしていい?」









その後、海にいく日を決めて、一緒に帰ることにした。
「あ、ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」
今日、試験を聞いていて疑問に思ったことを唐突に思い出した。
『うん、なに?』
「打楽器のソロってどんな楽譜なの?今日の恒星が演奏していた曲を聴いてても、楽譜がどうなっているか想像がつかなくて。」
『あぁ、あれはね、ちょっと特殊なんだ。』
そう言ってカバンから楽譜を出してくれた。
見た瞬間驚いた!
普通に五線譜なんだけど、大きなカッコが書いてあって、その中に短いフレーズが書いてある。さらにカッコの外に×49と書いてある。カッコの外から右に→が書いてあって、またカッコがある。そのカッコには×22。それからまた→。
基本的にはその繰り返しで、カッコの中の音符と外の数字は全部違っている。
『これは、カッコ内のリズムをおおよそ何回繰り返せって言う意味なんだ。数は、任意で変えていいって言う指定もある。つまり、同じ曲でも演奏する人や、その時々によって演奏時間が変わるってことだね。』
なるほど。。
「その説明自体もすごいことだと思うけど、なによりもこんな楽譜があると思わなかったわ!ありがとう!また教えてね!」
『うん、いつでも!』
こうして電車で一緒に帰るのも、もう何回目かな?
できれば他の女が手を出す前に発展したいけど、あんまりがっついてるとも思われたくないし。。
焦ってもしょうがないけど、やっぱりちょっと焦る。なんでって?だって、いい男だもん。

『どうした?難しい顔してるけど』
そう言って顔を覗き込まれていた。
「え?んん、なんでもないよ!」
ドキッとした。恒星君は、軽く香水を振ってるみたいなんだけど、それが本当に良い香りで。。
あぁ、本当、かっこいい。。
ちょっと前までは私が顔を覗き込んでからかうばっかりだったのに///
『あんまり難しい顔してると美人が台無しだよ』
え?今なんて?
って聞こうとしたら、恒星君はもう顔を背けていた。
なによ!自分だって恥ずかしいんじゃない!

こういう関係だって、悪くない。
けど、やっぱり私は、恒星君の彼女になりたい。
彼女になって、いつでも堂々と彼の隣にいたい。その居場所を独り占めしたい。
最近、そんな気持ちが大きくなってきてる。
彼と一緒なら、もっと頑張れるし、もっと支えてあげられる。。

ねぇ、恒星君?
あなたは私をどう思ってるの?











「という訳なんです。。お恥ずかしながら。。」
藤原先輩は、黙って話を聞いてくれた。
『んー、なるほどね。私から見たら、明らかに両想いだと思うんだけどね。樋口君は真面目そうだし、別れたばっかりだからあんまり積極的になれないんじゃない?』
私も、少しはそう思う。でも、なによりも
「そうかもしれないですね、でも、私はもっと根本的なところで不安なんです。」
『根本的なところ?』
先輩はくいっと首を傾げる。。可愛い。
「そもそも私みたいな人、好きになってくれるのかな?って。彼、時々何考えてるかわからないし。。」
先輩は聴きながらニコニコしていた。
なんだろ?
『いいね!結ちゃん!恋してるね!』
なっ///
「なんですか急に!?」
『ごめんごめん、からかったつもりじゃないの!でも、多分大丈夫だよ!樋口君が私が思うような真面目な人なら、そもそも気がない人の誘いには乗らないんじゃない?』
まぁ、それは確かに。。
「まぁ、そうかも、しれないですね。」
『でしょー?だったら、結ちゃんは今までどおりでいいんじゃない?夏休みって言ったって、明けたらすぐオーディションだし、それは樋口君だって一緒なんだから!そんな中、1日デートしたいって言われたんでしょ?絶対大丈夫だよ!』
藤原先輩とは、あれ以来仲良くさせてもらっている。今も、先輩が最初に誘ってくださった喫茶店でお話ししてる。
「確かに、そうですね!ウジウジしてても始まらないですよね!」
ありがとうございます。先輩
『うんうん!まぁ、女の子同士だから、気持ちはよくわかるけどね!またお話聞かせてね!』








夏休みに入ってからはあっという間だった。
オーディション課題がとにかく多いし、私達は初めてだから、当然全部が初めて見る楽譜だった。
譜読みは大変だけど、オーディションに合格したかったら正直譜読みの後の方が全然大変だ。
楽譜に書いてある通りのことをしながら、しっかりと自分の表現をしなきゃいけない。
それに、極め付けはコンチェルトね。。
噂によると、大半のオーディション受験者はコンチェルトの途中で切られてしまうらしい。
だから、まずはしっかりとコンチェルトを吹きこんでいかなきゃ。
こうやって毎日毎日学校で練習していると、毎日顔を合わせるメンバーは大体決まってくる。
私達クラリネットの場合は、藤原先輩と私をいれて大体7人から10人くらい。ほとんどが先輩達だ。
このメンバー全員がオーディションを受けるつもりなんだと思うとゾッとする。。
オーディション合格者は6名。この中で合格しようと思ったら、先輩達よりも良い成績じゃないといけないことになる。。
いや、考えても仕方ない。
そう、頑張ればいい!頑張ればいいのよ!
8月に入ればすぐに恒星君と海にいく約束がある。
そこを目指して頑張る!
ありがとう恒星君!
あなたとはあんまり会えてないけど、こんなにも私を支えてもらっているわ。
なにか、お礼がしたいくらいね。。





こうして迎えた8月5日。せっかくの夏休みなので土日を避けて約束した。
今日は、さすがの私もちょっと気合いを入れておしゃれした。
服装だけね。化粧はいつも通り。
この日は、小山駅で待ち合わせ。時間は、なんと朝7時!
恒星君は、【せっかくの休みにごめん】なんて言ってたけど、私は全然かまわなかった。
むしろ、長く一緒にいられるから嬉しかった。
私は、準備も早々に終わってしまって家にいてもしょうがないので、早めに出ることにした。

小山駅には待ち合わせの30分前に到着してしまった。
すると、手の中で携帯が震えた。
【ごめん、早く着きすぎてしまった。笑
ゆっくりで全然大丈夫なので、着いたら西口のロータリーでお願い。黒のステーションワゴンだよ】
私は、ロータリーへの階段を駆け降りた。

「おはよう!」
車の助手席の窓から声を掛けた。
『お、おはよう!』
なんだか緊張している様子。
それもそうか!
「私も早く着いちゃった乗っていい?」
『もちろん!どうぞ!』
車内に入ると、もう程よく冷房が効いていた。
BGMは、誰の曲かわからないけど、とっても綺麗な声の女の人。バラードだった。
「今日は、よろしくお願いします」
そう言って軽く頭をさげると、
『こちらこそ、ゆっくりしか運転できないけど、勘弁してください。』
そう言って少し笑った。
大丈夫かな?すごい緊張してるみたい。
「ゆっくりで全然大丈夫だよ!いっぱいお話しよう!」
車はゆっくりと走り出し、すぐに国道50号線に出た。
二車線あるうちの左側を、法定速度ぴったりで進んでいく。
なんだ、言うほど初心者っぽくない運転ね。
むしろ、これなら車酔いしなくて済むかもっていうくらいスムーズだった。
『大丈夫?もし酔いそうだったら早めに言ってね?』
全く。笑
恒星君って、絶対私の心を読んでる気がする。
「全然大丈夫!これなら酔わないと思う!」
『そうか、ならよかった。大事な人を乗せてるから、気をつけないと』
え?って思ったけど、いつもみたいにはからかえないのでスルーした。。
あぁ、もったいない。笑
「ねぇ、これ、誰の曲?すっごい綺麗な声だね!」
すると恒星君は本当に嬉しそうな顔をした。
『いいよね?木村結っていう歌手だよ。』
あら?
「へぇ、私と同じ名前!」
『うん、実は、初めて会った時から思ってた」
ニコニコと本当に嬉しそう。
ファンなんだなぁって思うと同時に、ちょっとだけ嫉妬しそうになった。
あぁ、でも本当に良い声。
「いいな、私も今度聴いてみたい!ネットならCD買える?」
『もちろん!もしよかったら、貸そうか?』
「うん!ありがとう!」

大洗までの道のりは途中で何度か休憩して二時間半。決して短い時間ではなかったはずなのに、本当にあっという間だった。
むしろ、もっと話していたいと思ったくらいだ。
『着いた!慣れない運転でごめんね!』
「ぜーんぜん!むしろ上手だと思うよ!免許持ってない私が言うのもおかしいけど」
『ありがとう。いや、無事に着けてよかった。』
私達は、海水浴場をゆっくり歩いた。
学校のこと、友達のこと、家族のことなんかも珍しく話して。でもやっぱり、一番は音楽のことを話した。
音楽を始めたきっかけとか、なんで今の楽器を手に取ったかとか。
でも、これはまた別のお話。

ゆっくり何度も海岸を歩いて、海の家で軽くご飯も食べて、大前神社にも行けた!
なんか、大人のデートって感じですっごく嬉しくて楽しかった!
帰りも結構時間がかかるし、そろそろ帰ろうかって言おうとすると。。
『あのさ、もう一回海岸に行って良いかい?』
え?
「うん、もちろんいいけど。」
なんだろ?


もう一度海岸沿いの駐車場に車を入れた。
夕方に差し掛かって、すっかり車も少なくなってる。
恒星君は、車を降りて歩き出した。
ちょっと高くなっていて、砂浜には直接降りられない広場みたいなところまできた。
『あのさ、ちょっと前のことだけど、』
ん?なんだろ?
「うん、なぁに?」
『俺が元カノと別れた後、正確には、別れる前もだけど。沢山話を聞いてくれて、支えてくれてありがとう。ただの友達なのに、すごく親身になってくれて助かった。これは、お礼と、後、これからも、よろしくお願いしますっていう気持ち。』
え?そう言って小さな箱を差し出す。
え?予想外すぎる。
あと、なんだろ、なんか引っかかる。
でも、贈り物は素直に嬉しい!
「ありがとう!そんなの、気にしなくていいなに。私が恒星君の支えになりたかったからしたんだよ?でも、ありがと!プレゼントは素直に嬉しいよ!開けてみてもいい?」
『うん、気に入ってもらえるかは、ちょっと自信ないけど。。。』
早速包みを開けてみた。
恒星君が黙って包装紙を私からも受け取ってくれたので、私は丁寧に箱を開けられた。。

え?なんだろう?

取り出してみた。




















リボンだった。
正確には、リボンの付いた髪飾りだった。
リボンって言っても、細くて長めの大きな蝶になってて、色は青と紺の間くらいの、ちょっと淡くて落ち着いた。
なんていうの?そう!大人な感じの!
なのにすっごい可愛い!!

『えっと、結さんの好みがわからなくて、俺が勝手に似合いそうだなと思った物にしてみた。。俺、こういうのあんまりセンスがないか…』
私は、そっと恒星君の唇に人差し指を立てた。
「そんなことないよ。大人っぽくて、すごく好き!デザインもだけど、色がとにかく好みだよ!ありがとね!」
って言いながらハッとなった。
近っ!!
やばい!!
『ありがとう。気に入ってくれて、よかった。これから、本番とかで着るような、ドレスにもいいかもって。。』
すごい、
「そこまで、考えてくれたんだ。ありがとう。」
なんだろ?なんかひっかかる。
『あのさ、もう一つ、聞いてくれるか?』

「え?うん。」
『結さんが、この間言ってたこと。夏の終わりにもう一度海に連れて行ってほしいっていう。』
「あ、うん。」
恒星君が、小さく深呼吸する。
『あれ、オーディション後ではだめかな?海には、オーディションの結果が出た後に、もう一度一緒に来たいんだ。』
さっきまでのテンパりはどこに行ったの?って言うくらい落ち着いて、いつもの貫禄を取り戻していた。。
ここ数ヶ月だけでも、恒星君は腕や肩に筋肉が付いて一回り大きくなったように見える。
それだけ、練習頑張ってるんだね。
「それは、かまわないけど…。」
それって夏休みの間はもう遊びに行かないってこと?
『けど…?』
「夏休みの間は、もうデートしてくれないの?」
『え?いや、そういう意味ではないよ!飽くまでも、海に来るのはっていう意味で。』
なんだ!そういうことか!
「なんだ!それなら全然いいよ!じゃ、今度のデートはどこに連れて行ってくれるの?」
また慌ててる。笑
ギャップが激しい人ね。笑
『えっと、結さんは、どこにいきたい?って、それは海か。っていうか、デートって。。』
なによ!違うの?
「男女が二人で出掛けるんだからデートでしょ?じゃ、海がダメなら山にしない?日光とか!」
『おぉ!それはいいかもしれない!中禅寺湖とか!』
「うんうん!いいかも!よかった。また楽しみができたわ!」

ということで、無事に次のデートの約束も出来たてよかった。
深く考え過ぎると、やっぱり不安になるけど、恒星君は紳士よ。だから大丈夫。
色んな人とデートして遊ぶような人じゃないし、そもそもそんなに暇な人じゃない。
まぁ、友達ってところを強調されたのはちょっと、っていうか大分引っかかったけど。。
きっと、オーディションが終わるまでは集中したいんだと思う。
だから、オーディション後には私ももっと積極的になってもいいかも。
そうすると、もし告白するなら、次に海に行く時…かな?
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