ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う
 ガヴェアの王都で一人花を売っていた頃には考えられない、今のこの状況。時々、あの頃の自分に会ってみたい気もするのだ。きっと未来はこうなるよと言ったところで信じてもらえないけれど。

「ワーウィックと俺が君の行きたいところに連れていくよ。次の長期休暇は、南国に行くのも良いな」

 南国という言葉を聞いてスイレンは後ろを不思議そうに振り返った。リカルドはそれを笑って見ている。

「冬でも寒くないんだ。その代わり夏はうだるほど暑いが、冬は丁度過ごしやすい気候だよ」

 リカルドは今までに何度か南国に行ったことがあるらしく、聞いてもいないのに今行ったらどれだけ楽しいかを並べ立てる。スイレンは好きな人と、次の約束が出来ることがくすぐったくて嬉しくて、何度も笑ってそれに頷いた。

「……ワーウィックも、そろそろお腹いっぱいみたいだな」

 呆れたようにリカルドは言い、赤い竜がキュル! とかわいい声をさせてその声に応える。

「スイレン、じゃあ、今からガヴェアに飛ぶよ。準備は良い?」

 スイレンは強化魔法のかかった魔道具である腕輪を確認した。

 竜の高速飛行中は体にかなりの負担がかかってしまうので、これがないと常人には耐えられないのだ。きちんを彼女の右腕にそれが嵌っているのを見て、リカルドは自分の指令を待つ竜に張りのある低い声で言った。

「行け、ワーウィック。ガヴェアとの国境まで最速で飛ばせ」

Fin
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