ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う
 昔、騎士学校で習ったいわゆるハニートラップというものを警戒した。女慣れしていないから、こんな可愛い女の子に何か聞かれたらべらべらなんでも聞かれていないことまで喋りそうな自分がにくい。いくらもうすぐ死ぬとは言え、騎士としての忠誠を捧げている国に砂をかける訳には行かない。

 何故かかるく首を振って彼女はもう一度じっと自分を見つめた。見つめ返す自分の顔はどう見えているのだろうか。檻の中にはもちろん鏡などない。泥がついていないか、不恰好になっていないか、場違いなことを考えたりもした。

 その時、自分の目の前にピンク色の花が花開いた。

 そんなことが起こるとはまったく考えていなかったリカルドはもちろん物凄く驚いた。まじまじとその空中に浮かぶいくつかの花とその可愛い女の子を見比べた。はにかんでいるその様子から、彼女が何かしたに違いない。

 その時荒々しい足音が響いた。衛兵がいつもの尋問を始めるのだろう。リカルドが捕えられた時から一言も何も話さないのはわかっていても彼等はやめない。

 後ろ姿の走っていく女の子が抱えている大きな籠から舞った花びらがとても印象に残った。まるでつよい香水の残り香のようにその光景が心に刻み込まれたのだ。
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