ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う
 そう思うと、なんだか自分のせいにも思えて、スイレンは取るものもとりあえず城にまで来てしまっていた。

 今腕にある強化魔法のかかった魔法具は、リカルドの持ち物だから以前ブレンダンに借りた時のようにすんなりと城に入ることが出来た。とは言っても、仮にこの部屋に入ることが出来たとしても、大事な仕事で使う書類をその辺に置いておける訳がないし、リカルド本人を見つけられないとなると、本当に困ってしまう。

 大きな扉の前で、途方に暮れてしまったスイレンの背後からパタパタという軽い足音がした。

 慌てているのか小走りで文官の制服を着た女性がこちらに向かってくる。スイレンはびっくりして目を瞬いた。彼女はスイレンの姿を見て、足を止めて不思議そうにすると、はっと何かに気がついたのか、声を出した。

「あっ……嘘。今日って午前中鍛錬の日なの、忘れてたっ……」

 がっくりと黒髪のお団子を作っている頭を下げた女性は、そっと頭を上げて驚いたままのスイレンに向かって尋ねる。

「えっと、もしかして何か困ってますか? お手伝いしましょうか?」
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