片想い婚
 ううんと唸って悩む。でも蓮也は付き合いの長い友達だしなあ。

 一人でそう考えているところに、玄関の鍵が開く音が聞こえてきた。はっとしてすぐにスマホを適当に放る。すぐに廊下を駆けて玄関へ向かうと、やはり蒼一さんが帰宅してきたところだった。

「お帰りなさい! 早かったですね」

 私が笑顔で言うと、彼も柔らかい顔で返してくれる。

「うん、最近ちょっと落ち着いてるから」

「よかったです」

「夕飯食べようかな、お腹空いた」

「すぐに温めますね」

 こういった会話だけを聞けば、完全に夫婦なんだけどなあ。私はすぐにキッチンへ戻り、昼間山下さんと作った料理たちを温め直す。

 毎日を繰り返すことで少しずつ慣れてきた蒼一さんとの生活。リズムが出来てきたといえばいいのだろうか。

 食卓に二人分の食事を並べていく。すぐにやってきた蒼一さんはテーブルの上を見た顔を綻ばせた。

「あ、生姜焼きだ」

「好きなんですか?」

「実はね」

 笑う顔はどこか子供っぽく見えて可愛いと思ってしまった。熱くなった胸を抑えつつ、グラスにお茶を注いでいく。

 どこか機嫌良さそうに席に座る蒼一さんの前に腰掛ける。二人で手を合わせて挨拶をした。

「いただきます」

 箸を持ち食事を取る。今日の食事もほとんどは私が作ったものだ。でも蒼一さんは多分山下さんが全部作ってると思ってる。さて、いつバラそうか。

「あ、そうだ」

 ご飯を飲み込んだ時、私は声を出す。蒼一さんが顔を上げた。

「あの、今度蒼一さん、お誕生日じゃないですか」

「え? あ、そうだねそういえば」

 まるで人ごとのように彼は言う。少し笑ってしまった。

「そんな、忘れてたんですか?」

「うん、完全にね」

「あの、当日はお仕事ですよね? 終わった後どこか出掛けられますか? お友達とか」

「え? いや別にそんな予定ないけど」

 彼の返答を聞いて喜びが笑顔で溢れてしまった。そんな私の顔を不思議そうに蒼一さんが見てくる。喜びを隠すこともなく、声を弾ませて言った。

「じゃあ、おうちでお祝いですね!」

 驚いたように目を丸くする。山下さんと少し豪華なご飯、あとケーキも焼かなきゃ。当日に蒼一さんと二人で祝える。
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