素直になれない…
「ちょ、ちょっと待ってよ」

駐車場に止めていた車の前まで来て、私は雄平を呼び止めた。

「私はどこかビジネスホテルをとるから」
「却下」
「他に買うものもあるし」
「話が終わったら連れて行ってやる」
「それにほら、携帯も変えないと。父さんたちに居場所が見つかったら面倒でしょ」
「最初から逃げる前提なのがおかしいんだ」

さっきまでの困惑したような顔からいつもの表情に戻った雄平は、じっと私を睨んでいる。

そんなこと言ったって・・・
今の状況ではほかに選択肢がないんだから、仕方ないじゃない。
それに、

「雄平のマンション、一人暮らしじゃないんでしょ?」
言わないつもりだったのに、言ってしまった。

「友人が同居しているが、今月いっぱいアメリカに行っていて留守だ」
「ふーん」

友人ね。
それに、今いるとかいないとかって話じゃないのに。
そもそも同棲している部屋に別の女を入れることがまずいと思うけれど。
雄平はどういうつもりなんだろう。


「何してる?乗って」

うぅーん。

すでに運転席に乗り込んでいる雄平。
持ってきた荷物も車に積まれてしまって、私としては逃げ場がない。
わかってはいるんだけれど・・・

「藍っ」
「わかったわよ」

不満はあるけれど、ここで意地を張ってもどうにもならない。
私は渋々車に乗り込んだ。
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