花となる ~初恋相手の許婚に溺愛されています~

幸せ

お茶屋さんに寄ってお土産のお茶の葉を買った。種類が多くて悩んでしまったけれど、店員さんが相談に乗ってくれて決めることができた。翔哉くんも色々と質問していてかっこいいなと思った。わたしは翔哉くんに対する、好き、とか、かっこいい、とかのメーターが壊れてしまっているのかもしれないなと思う。だって常に、翔哉くんが何をしていても好きでしかないのだから。
そして、わたしはあまり緑茶を飲まないけれど翔哉くんは好きだと思うし、お父様お母様の好みもわかっているから店員さんに質問してくれて助かった。候補をいくつかに絞ってくれたのは悩んでしまうわたしに対しての優しさだろう。
優しさ。わたしは翔哉くんからたくさんの優しさをもらっている。それは本当にありがたいことで、わたしは翔哉くんにお返しできているのかなと不安な気持ちになってしまうこともあるけれど、優しい、大好きな翔哉くんが笑って、一緒に過ごしてくれるからその不安な気持ちも薄れていく。翔哉くんの優しさは魔法のようだと常々思う。

「いつもあまり連絡来ないのに急に話があるとか言われると怖いね」
「お母様から連絡来るの珍しいの?」
「うーん、基本的に放任主義だと思うよ。俺ももう二十五歳だしそんなに頻繁に連絡してこない。父さんの方が話す機会があるかな、仕事の話とか」
「確かに一緒にいるときに電話がかかってくることって少ないよね」

わたしたちが週末一緒に過ごしていることは、翔哉くんのご両親も知っていることだし認めてくれているとも思っている。それゆえの連絡の少なさかと思っていたけれどそうではないらしい。

「用事がないのに連絡されても困るけどね。俺は晴喜との時間を大切にしたいと思ってるし」

翔哉くんとの日々を重ねていくごとに、翔哉くんのことをひとつ、またひとつと知っていく。何年も一緒にいてそれでもまだ新しい発見があったりするから、人間って面白いと思う。最近の気付きは、翔哉くんに若白髪があったことだ。翔哉くん自身は気付いていないと思うけれど。
車は信号停車を終えて加速を始める。
わたしは助手席から翔哉くんの横顔を眺める。
幼い頃から、わたしの手を引いてくれていた頃から、わたしにとって大切な存在。隣にいてくれるのが普通で、当たり前で。でも、その普通も当たり前も、翔哉くんの優しい気持ちの上に成り立っていることを忘れてはいけないなとも思う。

「ん?どうした?」

わたしの視線を感じたのか、翔哉くんがわたしに問いかけてくる。

「んー?かっこいいなあって思って」
「晴喜は本当に俺のこと好きだね」
「今更でしょ?」
「まあ、今更と言えば今更か」

確かに、他の人を好きになるという選択肢は用意されていないわたしの人生。でも、他の人のことなんて目に入らない。この地球上に存在している生命の中で、いちばんに大切で、いちばんに大好きな人が翔哉くんなのだから、わたしにその選択肢なんて必要がない。たとえ、このしか知らないとしてもわたしは幸せ者だ。だって、大好きな大好きな人と思い合えて、その人に生涯添い遂げられるなんて、この上ない幸福でしょう?

「この間、仕事で付き合いのある人、うーん、男で結婚してて俺より少し年上の人なんだけどさ、結婚は人生の墓場だよ、って言ってて」
「え?」
「うん、俺も、え?、って言ったんだけどさ、何か奥さんと意見合わなかったりして喧嘩が増えたんだって」
「うん」
「俺たちって基本的に喧嘩することってないじゃん。喧嘩してもきちんと仲直りできるし、俺はその喧嘩すら、喧嘩の理由すら愛しくなっちゃうんだよね。だから、将来結婚しても結婚が人生の墓場だと思うことってないな、って思ったし、そう思える結婚って幸せだな、って思った」

結婚は人生の墓場、確かに耳にしたことのある言葉かもしれない。でも、わたしの両親にしても、翔哉くんのご両親にしても、そんな不仲な様子を見ることはなかったので、ありがたいことにわたしにはあまり関係のない言葉なのかな、とも思っていた。翔哉くんが同じ言葉を聞いて、同じように自分に関係のない言葉だと思ってくれることが素直に嬉しい。
そして、わたしとの結婚を幸せだと思ってくれていることも。
翔哉くんの愛を疑っているわけではない。翔哉くんの愛は日々感じている。だけど、それが言葉として胸に届くと、やはり嬉しいという感情が身体の中を駆け巡るのだ。

「もう本当、早く晴喜と結婚したい。晴喜、早く大学卒業してよ」
「えー、無茶言わないで」

翔哉くんが笑いながら冗談を言うから、わたしも笑いながら返事をする。
わたしは来春、大学を卒業することになるだろう。それが遅くなることはあっても、早まることは絶対にない。翔哉くんもそれがわかっているからこそ、冗談として言ってくるんだと思う。
人を笑わせるのは冗談、人を傷付けるのは嘘。全てがこれに当てはまるわけではもちろんないとは思うけれど、それでも翔哉くんはわたしに絶対に嘘は吐かない。これはわたしの自信。

「ウエディングドレスの晴喜、綺麗なんだろうな」

翔哉くんが思い描く未来に、主役として登場できる嬉しさ。幸せさ。
あなたの未来にわたしがいること。わたしの未来にあなたがいること。これは決定事項である。そして、とても幸せなことだ。
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