花となる ~初恋相手の許婚に溺愛されています~

わたしだって

時々、手伝うよ、と提案してはわたしに断られ、わたしが家事をするのを翔哉くんはぼんやりと眺めている。翔哉くんの気持ちは嬉しいのだけれど、わたしはわたしで休んでいてほしいという気持ちが強いし、自分のペースというものもある。でも、毎週になるとその時間は少し退屈なのかもしれない。

「晴喜」
「なあに?」

今わたしはは作り置きのおかずを作っている。コンビニやスーパーでおかずを買ってもいいのだろうけれど、翔哉くんが自分で選ぶと好きなものしか買って食べないのは目に見えている。そうすると栄養が偏っちゃうし…、なんて勝手に思うのは、自分が翔哉くんのためにできることをひとつでも増やしたいからなのかもしれない。
幼い頃の四歳差はとても大きかった。わたしはいつも翔哉くんに手を引かれていたし、事あるごとに守られていたように思う。それは今でも変わらないのかもしれないけれど、もう、守られるだけのわたしではない。翔哉くんを支えられる自分でありたい。そう思い始めたのは高校生の頃だったように思う。

「それ終わったら出かける?」
「どこか行きたいところがあるの?」
「いや、特には思い付かないけど、天気いいし」
「トイレットペーパーが少なくなってきてたよ」
「ありがとう。でも、そういうのじゃなくて」

デート、したいんですけど、って小声でもごもごと言っている様子はとても可愛い。炒めているピーマンを見ながら思わずにやけてしまう。
最初からデートしよう、と言ってくれてもいいのに。
出会ってからもう十五年は確実に超えている。特別な関係性になってからも長い。それなのにわたしに対して照れたり恥ずかしがったりしてくれることを嬉しく思う。慣れっていうのはとても怖いから。

「一緒に、運動がしたいな」
「いいよ。公園に行こうか」

わたしの返事に嬉しそうに笑ってくれる翔哉くんは、わたしのことを本当に大切に思ってくれていると思う。でも、わたしだって負けていない。翔哉くんのことを大切に思っているし、大好きすぎるくらい好きな自信がある。何の勝負だって話だけれど。

「何準備しとけばいい?タオル?」
「タオルは絶対に必要だよね。あと帽子。わたしにも貸してね」
「オッケー」

少し声が遠くなった気がして振り返れば、翔哉くんは帽子を選んでいるようだった。わたしも帽子が好きだけれど、翔哉くんも帽子をたくさん持っている。今まで考えたことがなかったけれど、わたしの帽子好きは翔哉くんから影響を受けている気がする。本当に、わたしは翔哉くんに関するもので出来ているんだなって思ってしまった。
そして、わたしとデートすることを楽しみにしてくれているのが感じ取れて、そのこともとても嬉しい。
料理もほぼ終わり、片付けを始めると翔哉くんが近付いてくる。

「片付けは俺がする」
「え?」
「晴喜は出かける準備して」
「でも」
「いいからいいから」

確かにわたしはまだすっぴんだった、けれど、片付けをしてもらっては、休んでもらったことにならない気がして上手に返事ができなかった。

「日焼け止め、しっかり塗らないと焼けちゃうよ?」

おかず、いっぱい作ってくれてありがとう、ってわたしの頭を撫でてくれる優しい手のひら。優しい優しい翔哉くん。ああ、やっぱり大好きだ、って、好きって気持ちがいっぱい湧き出てきて止まらなくなってしまう。
今日これだけ好きなのだから、明日はきっと、もっと好き。
わたしは毎日、好きを更新していく。
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