エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
その週末、楓は実家へやってきた。
顔を出すのは正月以来。雅史も同行すると言ってくれたが、芳郎をあまり刺激したくないため、ひとまず楓が話してワンクッションを置いてからとなった。
築三十年になる重厚な日本家屋には現在、芳郎がひとりで住んでおり、通いの家政婦に食事の世話などをしてもらっている。
玄関に出てきた家政婦と挨拶を交わし、リビングで芳郎を待つ。
亡くなった母はキャメル色の革ソファがお気に入りで、生前はここで本を読んだり日記を書いたりして過ごすことが多かった。楓も小学生の頃は少女文学を何冊か持ち込み、母親の隣でよく一緒に読書をしたものだ。
大きな病院の院長を務める父親は仕事が忙しく、幼い頃からあまり家にいた記憶はない。母と兄の三人で過ごした思い出ばかりで、父の姿を探すのにひと苦労する。ごく稀に四人で食事をしたときや誕生日くらいだろうか。
芳郎の妹には、父からの熱烈なアプローチで結婚に至ったと聞いたが、本当にそうなのかと疑いたくなるくらい母に対して素っ気なかった。
もっと家にいたらいいのに。もっと母とふたりで過ごせばいいのに。
常々そう感じていたのもあり、楓と芳郎の間にはどことなく壁がある。
ほどなくしてリビングのドアが開き、芳郎が現れた。