エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

楓と雅史を祝福する人は誰もいない。親はもちろん職場の人たちにまで否定され、彼への想いが独りよがりのものに思えてくる。

未だ拭い去れない、アメリカでの芹菜との一夜も楓を苦しめる。

芹菜にじわじわと攻められ、少しずつ陣地を奪われていく気がした。


「海老沢さん? 顔が真っ青だけど具合でも悪いの?」


トイレを出て歩いていると、反対方向から歩いてきた沙月に呼び止められた。


「……いえ、大丈夫です」


横に振る首にすら力が入らない。


「大丈夫って顔じゃないけど。ちょっと座ろうか」


沙月に腕を掴まれ、近くのカンファレンスルームに引き入れられる。手前の椅子に並んで座った。


「すみません、白石さん、お忙しいのに」
「ううん、気にしないで」
「……ひとついいですか?」
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