エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
ふたりの未来


七月に入り、梅雨の合間の晴れ間が射した休日の午後、楓は雅史の車に乗ってある場所へ向かっていた。

ぎらつく太陽はすでに真夏の熱を抱え、容赦なく降り注ぐ。車のエアコンを最大にして、ようやくちょっと涼しいくらいだった。梅雨明けも間もなくだろう。

ふたりが向かうのは、雅史の友人である京極(きょうごく)朋久(ともひさ)のマンション。雅史たっての希望で、彼に婚姻届の証人になってほしいという。

雅史と楓は正式に婚約し、そのニュースは一気に病院内を駆け抜けた。

芹菜の恋敵としてさんざんな噂を立てられたが、雅史がそれを清々しいほどに一掃。ナースステーションで『俺が想っているのは、はじめから海老沢さんひとりだ。ほかの誰でもない』と堂々宣言したときには恥ずかしさとうれしさに包まれた。

楓同様、政略結婚に悩まされていた沙月もつい先日、小児外科の倉持と晴れて恋人同士になった。想いを遂げた楓たちに触発され、自分も好きな人と人生を歩みたいと決意したという。実家の問題はまだ解決したわけではないそうだが、楓たちのようにふたりで乗り越えていくと。

芳郎から許しをもらった数日後、英太から電話がきたが、《幸せになれよ》と激励されて、かえって拍子抜け。楓が一度も靡かなかったため、芳郎に〝今回は申し訳ない〟と言われれば引き下がる以外になかったという。
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