エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
ところが楓の仕事ぶりは、雅史をいい意味で裏切っていく。
語学に長け、海外の論文の翻訳はお手の物。雅史が指示するまでもなく、興味を抱きそうな研究を翻訳してさりげなくデスクに置いておく。
それだけではない。雅史の意図や考えを素早く察知し、こちらが求めているものを的確に提示する能力は、大企業で訓練された秘書にも引けをとらないだろう。
楓には秘書としての資質が備わっており、決して大袈裟なアピールではなく自然体でできるのが素晴らしい。
頭の回転の速さや聡明さは会話の端々にも現れ、冗談も難なく返してくるなど、これまでの秘書とは決定的に違っていた。
最初はそれだけだった。彼女の仕事ぶりに魅了され、よき信頼関係を築いていることに満足していているだけ。そこに好意はないはずだった。
真面目一徹の彼女の、ふとしたときに見せる笑顔が気になりだしたのはいつだったか。
雅史の前では硬い態度を崩さない彼女が、患者の家族を交えた手術前カンファレンスで大きな不安を抱く患者や家族にそっと寄り添う姿は今でもよく覚えている。静かに励ますあたたかい眼差しに、雅史の心まで掴まれた。
気づいたときには、どうしたら彼女の気を引けるかと策を練っている自分がいた。