伯爵令嬢は無口な婚約者から愛の証を貰いたい
 思えば婚約してから、二人で街歩きをするのは初めてだった。こんな風に、手をつなぐのも、初めてだ。

 無言で歩く二人であったが、ランジェリーショップの前に来た時に、人だかりが出来ていたので、足をとめた。

――もしかしたら、チャンスかもしれないわ。ここで、グレン様が、私がパンツを履き忘れたことを察してくれれば、ついでだから、と買ってくれるかもしれない。

「グ、グレン様、あの・・・」
「ん?この店が気になるのかい?」
「い、いえ・・・あの・・・」

 言葉がでない。口で伝えるのも恥ずかしいが、どうしたら伝わるだろうか。お尻がスース―する、と言えばいいのだろうか。それでは痴女ではないか、と今更ながら自分の計画が困難を極めることを、実感していた。

「そこのお兄さん!今日の下着は用意しているかな?可愛い彼女へのプレゼント、今ならサービスするよ」

 露店のお兄さんの呼び声がする。勢いで買ってくれないかな、と期待して隣に立つグレンを見上げたが、彼は曇った顔をしていた。

「さ、行こうか」
「・・・はい」

 やはり、察してもらうことはできなかった。

 そうしているうちに、市場は混雑してきた。押し合い、とまではいかないが、人との距離が近い。

「ひゃっ」

 何かが、メイティーラのお尻の部分をさっと触る感触がした。気のせいかもしれないが、痴漢されたのかもしれない。

「どうした?」
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