優しい死神
椿の夢
 動くとシャランと鈴のような音が鳴り、それに倣うようにふわりと舞い上がる真っ黒な直垂(ひたたれ)。椿の花を頭や服につけていなければ巫女や神主と勘違いされそうな服装。僕がいる里は大江山と呼ばれる僕が尊敬している風鈴童子様の妖怪専用の里だ。都の人々には恐れられている風鈴童子様だが、恐れられている理由は人間の女子たちを攫っていっているから。別に風鈴童子様が攫っているのは女子ばかりじゃないというのに…このような話を聞いていてわかると思うが僕の名は黒種童子(くろたねどうじ)と平安の世で呼ばれている鬼だ。ちなみにこの名前は本名ではなく鬼になってからできた名前だ。付けてくれたのは風鈴童子様で名前の中にある黒種草の花言葉は『また夢で逢おう』っていう意味もあるみたいで風鈴童子様が言うには大切な人にもう一度会えるといいなという優しさが込められた名前で結構気に入っている。ちなみに都では別名『黒椿の死神(くろつばきのしにがみ)』と呼ばれている。この由来は僕の使う幻想術に関係している。僕の使う幻想術は椿に関係してくる、だから『黒椿の死神』。
「黒種。」
「薔薇童子様…」
僕はすぐに彼女の前に脆く。僕の上司であり風鈴童子様の直属の部下である薔薇童子様は豪華絢爛という言葉がまさに似合うお方で、真っ赤な髪と瞳にそれに合わさるように作られた真っ赤な12単衣。性格は明るく豪快で冷静沈着で冷静な戦いをする風鈴童子様とはまた違った魅力を持つお方だ。
「そう固くなるな、黒種よ。別に同郷のものなのに。そんな反応悲しくなるわ。」
「薔薇様は上司でございますので申し訳ございませんが…」
「雪は鬼になっても変わらんか…」
「その名前で呼ばないでくれますか?」
()。この名前は僕が人間だったころの名前だ。この名前で呼ぶのは薔薇童子様だけ。風鈴童子様は黒種と呼ぶ。
「ほっほっ。相変わらず神経質じゃのう。」
「別に薔薇様が大雑把なだけかと思いますが?」
本当にこの方は…
「はぁ…面白みがないのはフウ様と同じじゃな。」
「うれしい限りですよ。尊敬するお方に似てるといわれるなんて。」
別な言葉で言うなら恐れ多いだな。こんな僕が風鈴童子様と似ているなんてあり得ないだろうに。
「まぁいい、それよりもだ。黒種童子、其方は復讐を望むかえ?」
「いいえ。風鈴童子様の役に立てないのならやったって意味がありませんので。」
風鈴童子様の鎖とかになるなら別につぶすことも可能だ。だが、別に何も害がないのなら放置していてもかまわない。
「相変わらず故郷のこと何にも思ってないのだな。ならば、童が復讐したいと言ったら?」
「ご命令なさるのでしたら我が黒種童子お引き受けいたします。」
「ならば黒種童子命令じゃ、『花の森』に向かい一人攫ってこい。他は、全員殺せ。」
「かしこまりました。ちなみに攫ってくる子は特定でしょうか?」
「あぁ、其方の昔馴染みじゃよ。名を『撫子(なでしこ)』という。」
「撫子が?」
「其方の妹は鬼に味方したからと殺されたようじゃ。」
「あいつら…」
「殺す気はできたようじゃな?」
面白がるように俺のほうを見る薔薇童子様。本当に性格が悪い。
「あっはっはっは」
俺は思わず大笑いする。まぁ、あの二人をそこまで追い込んだということは『黒椿の死神』を敵に回す覚悟ができたという意味だ。それ相応の覚悟があるなら…必ずや全滅させてやるという思いを持って。そして、それを見ていた薔薇童子様が面白そうに俺のほうを見ていたというのは僕の知らない話。
「その様子じゃぁ黒種童子『赤椿』使うつもりかえ?」
「はっはっ、さすが薔薇童子様。はい、あんな奴ら黒椿を使う価値なんてないですよ。俺にとってあの二人と風鈴童子様は唯一無二の存在なんですよ。」
『赤椿』僕の椿系の術の中で最も威力が強く、範囲も広い最低最悪の術。でも、『赤椿』はとても簡単な術だ。だって、赤椿はとても育てやすいし、繁殖だって早い。本来なら赤椿の術を大量に使いたいなぁなんて思ってたんだが…『黒椿』好きなんだよなぁ…特に花言葉。僕の名前のもととなった黒種草の花言葉だって好きだけどやっぱり黒椿が一番好きな花だと俺は思う。
「黒種、全力で倒してこい。撫子の保護のためにアヤメを付けるがアヤメは其方の援護じゃないからあんまり気にせずぶっ放せ。」
「感謝します、薔薇童子様。」
アヤメはハーピーだ。空を飛んだりすることができて力も強いから人を運ぶことも可能。撫子ぐらいなら余裕だろう。別に僕だって鬼だからアヤメについていくことも可能。余裕だな。待ってろ、撫子。雪にぃが助けに行ってやる。
 二日が立った今日。出立の日。いつも通りの服装と狐のお面をして俺たちの故郷へ向かう。
「黒種様ー、早くまいりましょう!]
「すいません、ちょっとてこずってました。」
「ふふ、じゃあまいりましょう!」
「えぇ、たっくさん鬼らしく暴れてやりますよ!これからは復讐の時間だ。」
僕の生まれ故郷となっている花の森は人間界と妖怪会の境目にあり負の空気がとても高い場所だ。そのせいで空気が合わないな奴らは成人になるとすぐに出ていく。でも、昔から住んでいるバカ爺や変に空気があってしまうようなバカはここに住む。まぁそのせいで花の森は性格が悪い奴が集まっているような場所なのである。やっと出れると思ったあの日、僕は鬼になってしまった。僕の討伐をするため都からの援護を待つ間僕は地下牢に閉じこまれていた。まぁ都からの援護が来る前に僕は地下牢から抜け出してしまい、そのせいで倒されると思っていたところに助けに来てくれたのが風鈴童子様だった。本当に感謝してます、風鈴童子様。お陰で僕は幼馴染が助けられるのだから。
「黒種様、目標地点まで残り200メートル。どうします?」
「アヤメはここで待機。目標人物がここまで来たら二人で大江山に戻って。僕…ううん、俺は花の森をつぶしてから大江山に戻るよ。」
「かしこまりました。どうか風鈴童子様の加護がありますように。」
「はっはっ、そちらもどうかご無事で」
俺は走る。走って、俺の最悪の地へ向かう。俺が大っ嫌いな奴らがいる場所へ。なぁ撫子、お前はなぜ鬼になってしまったんだ?お前たち二人ぐらいは無事でいてほしかったのに…
 『四神のうち一柱白虎。我に風の加護をくれたまえ。』
これはずっと昔俺が幼いころに師匠様から教わった術の一つだ。何かしたいとき神獣の力をもらい受けたいときはこの呪文を使えと指示されていた。さすが師匠だ。スピードが段違いに早い。俺はすぐさま地下牢へ向かいカギは力ずくで壊し護衛は白椿を使い殺していく。俺の使う椿の術は計4つ。強い攻撃力からだと『赤椿』『白椿』『黒椿』。今俺が使っている『白椿』は範囲は狭いが攻撃力は『赤椿』と同様なうえに即効性が高い。まぁ今やっている任務にはちょうどいい椿だな。俺は、牢を見て回る。
「さーて、撫子はっと。」
「ゆ、雪にぃ…?」
「おっ、撫子…って嘘だろ!?」
彼女の顔は傷だらけだった。彼女のきれいな薄紫の髪色はほの暗い紫色に、活発で明るそうに見えたピンクの瞳は暗い赤に。そして…鬼のことを示す黄色の角。手と足は縄によって縛られているし牢は陰陽師たちによって結界が張られているようだった。
「助けに…来てくれたんだね。雪おにいちゃん…」
「あぁ、待ってろ。すぐ抱きしめてやる」
この結界は…朱雀か。はっ、バカか。青龍来られたら終わりだろうに。まぁ、だが好都合だ。
『四神のうち一柱青龍よ我に力与えたまえ。中にいるものを救う力を、朱雀の門から出す力を。』
俺は想像する。目の前は結界ではなく炎の鳥の姿で、俺は水の龍。イメージは消火。口から水を出すイメージだ。そしてそっと目を開く。上手く…行ったか。目の前はきれいに丸く開いている。そこから中に入り彼女の腕と足の縄を取り抱きしめてやると…
「うっ、うわぁぁぁぁぁん。怖かったよぉぉぉぉぉぉ。」
「ごめん、助けに来るのが遅くなってごめん。これからは傍にいるから。」
俺は彼女の頭を撫で抱きしめる。ずっとずっと本当は会いたくてたまらなかった彼女。でもそんなことしてる暇はない。後だ…俺は名残惜しいが彼女を離し
「撫子聞いて、ここから200メートル先にアヤメってハーピーがいる。俺たちの仲間だよ。そこから君を大江山に連れて行ってくれるから最初に戻っていて。」
「雪にぃは?」
少し不安そうな顔。ほんとに少し憂いがある表情が無駄にマッチしてるなぁ…俺は彼女の頭を撫でて
「大丈夫、俺は強いから。」
「死なない?」
「あぁ、しなない。これからは傍にいるから。一時だけ、な?」
「う、うん…」
「いいこ。」
俺はあたまをなでてやる。そうすると少し恥ずかしそうな顔をする。ほんとに変わらないなぁ。俺は彼女を姫様抱っこする。
「ゆ、雪にぃ!?」
「早く戻るためだかろ。少し我慢して?」
刻々うなずく彼女。本当にからかいがいがあるやつだなぁ。そうおもいながらアヤメのもとに向かうと
「黒種様、彼女をこちらに」
「おっ、早いな気づくの。じゃああとでな、撫子。」
「う、うん。」
 俺はまたすぐに戻り『赤椿』の準備をする。これは少し多いな。まぁ、余裕だろう。じゃあ始めますかぁ
『悪魔の遣い赤椿よどうか我に一類の力を与えたまえ。願うは裏切り者を殺す力を・我が愛しきものを殺したものへ罰を』
俺が呪文をつぶやくと廻りの椿がふわりと浮かび上がる。その花々がまるで血の雨のようにパラパラと花びらになり落ちていく。花びらが人の肩へと舞い落ちあいつらは苦しみながら死んでいく。はは…じゃあな村のみんな。俺はお前らを許さない。周りから見た俺はどう思われているかなんて知らない。俺は…お前らのせいで彼女たちと別れ、妹は殺された…ずっとずっと許してやらない。
「お、おいっ!?そんなところで何をやっている!?」
ちっ、ばれたか。めんどくせぇな。
「はぁ…そんなこといいと思ってるのかよ?お前なんかすぐ死ぬんだぞ?」
「はっ、何ゆってんだよ。お前みたいな子供が俺を殺せるはずが…うわぁぁぁぁぁ」
「話がなげぇよばーか。俺の名は黒種童子。『黒椿の死神』とはこの俺のことだ。まっ、ここでは『雪』とでもいったほうが早いのかねぇ。」
俺の両親はこの里の一番偉い一族だ。そんな息子が鬼になったなど恥じすぎるがあの両親のことだどーせ俺のことを話しているだろう『落ちこぼれ』として。
「雪…?お前っ落ちこぼれでばかの!?」
「そうだが何そんな驚いてんだよ。」
「お、お前のせいで…俺たちは…」
「一体何なんだよ?はっきりしてくんない?」
「俺は…瑠璃(るり)。お前の兄だよ、雪!」
「は…?はっはっはっはっは、まさか最後の最後にルー兄さんと会えるなんてなぁぁ。」
俺の大っ嫌いな家族。そのうちの一人である瑠璃兄さん。瑠璃はロゼリアという花の別名からとられたもので、花言葉は「優秀」と「悪意」。何度思い出しても瑠璃兄さんにぴったりだよな。確かに優秀だがそれをも隠すあの人の悪意。両親から受け継いだんだろうけど本当に…大っ嫌いだ。撫子や藤華(とうか)の名前だってまるで彼女たちにあつらえられたかのようにぴったりだが…この人にはそうであってほしくなかったな…。
「そんなのこっちのセリフだよ。つーかお前がここにいるってことはこの騒動の犯人はお前か。」
「えぇ、俺ですよ。まぁ正確には撫子を迎えに来てやったんです。ほら、あいつ鬼になっちゃたらしいので。」
「はぁぁ…本当にお前はめんどくさいことしてくれる。藤華もそうだったけどさぁ、お前もだよなぁ。」
「藤華…?今藤華って言いました?」
藤華。この名は俺の双子の妹の名だ。そういえば茨城童子様が「其方の妹は鬼に味方したからと殺されたようじゃ。」とか言ってたな…
「あぁ、お前の妹の藤華だよ。あいつさ毎回撫子に飯とかやりに行ってるんだもん。うざったくて仕方ねーから殺したんだよ。」
「お前…ぜってぇ殺す。許さない。お前だけは俺が殺してやる」
「はっはっ、むきになっちゃて?相変わらずのシスコンですか―?」
「シスコン?それいうならお前だってマザコンでファザコンじゃないか。」
こいつは母さんと父さんの言うことには絶対服従。前に一度なんかの術とかやられてるのか思ってたが何と純粋にそうやっているらしい。あぁ気持ち悪い。
「俺の母さんたちへの思いはそんな言葉じゃ語られねぇよ!じゃあな、雪。死ね。」
「そんなのこっちのセリフだ、バカ兄。」
「「じゃあ、最後の兄弟げんかだ。」」
先手はあっちだった。型はただの攻撃型。こんなの俺が防げないと思ってるのか…俺は軽く返す。これでも鬼になったのだから力は強くなってるのだ。それでも何回もやってくる勇気は称賛するが俺は今日忙しいのだ。早く戻って撫子のもとに行かなければ。
「そんなんで終わり?じゃあ、こっちからいくね。『四神のうち一柱青龍よ我に力与えたまえ。目の前の敵を倒す純粋な力を。』」
イメージは竜が兄さんにかみつくイメージだ。俺は少し離れる。そうすると水の龍が兄さんを飲み込んでいく。そして、いなくなった時には既に兄さんは寝っ転がり虫の息だった。まぁ、最後はきちんとね。俺は兄さんの首に剣を突きつけ
「最後に何か言いたいことある?」
そう聞くと
「はっ、あるわけねーだろ。さっさと殺せよ。俺の大っ嫌いな弟。」
「あぁ、さっさと殺すよ。じゃあな俺の大っ嫌いなにいさん。」
それだけで十分だ。俺はあんたを絶対に許さない。あんたが…藤華を殺し撫子を追い詰めたことを。
「さーて町のほうは~?うんうん、さすが俺の椿たち。さぁ戻ろう酒呑童子様のもとへ。」
その後俺の噂が都に届いてしまうのはまだ先のこと。
 俺は今や空っぽとなった森を走り抜け待ち合わせ場所である薔薇童子様の屋敷へ向かうと撫子が窓から顔を出していて俺に手を振ってくる。
「雪にぃ!アヤメ様、薔薇童子様!雪にぃもどってきました!」
まぁ薔薇童子様の屋敷だが今日は忙しいとか言っていたので俺は驚いて思わず立ち止まると撫子の隣に赤い髪。まさか…
「おぉ、帰ってきたか黒種よ。」
「やっぱり…なんでこんなところに居るんです薔薇童子様。」
薔薇童子様だった。本当にこの方は。
「いやぁ、撫子を救えといったのは童だからなぁ。ちゃんと会いに来なけりゃいかないだろう。」
「全然来なくてよかったんですよ…風鈴童子様は?」
「フウ様は…少し都に行っておる。」
「え…大丈夫でしょうか?」
「大丈夫に決まってる。あのフウ様じゃよ?あの方に勝てるものなんてそうそう現れんよ。」
「そう…ですよね。」
そうに決まっている。風鈴童子様以上にすごい妖怪も人間もまだ出てきていないのだから。
「そうそう、撫子。其方はこれからどうするつもりじゃ?」
「私は…」
少し考え込むように俺のほうを見てくる撫子。まぁそんなの決まってるんだけど。
「そんなの決まってますよ。撫子は僕の屋敷に来させます。」
「え…?いいの?」
「そんなこと言いながら僕のほう来る気満々だったろ?」
「へへ、ばれちゃった?」
「そう簡単にお前が変わるはずねーんだよ。」
「ひどいな、雪にぃは~」
「はぁ…こんな奴なんで僕が預かります。先行ってて。案内はアヤメさんに頼んであるから。」
「黒種様っ!?」
「うん!じゃあ、あとでね。」
「おう」
俺は手を振り返し彼女がここから出るのを見送った後に…
「で、本題を薔薇童子様」
そう聞くと面白そうににやぁと笑う彼女。まぁそりゃそうだ。こんな人でも風鈴童子様が信頼する部下なのだから。
「ほっほっすまんのー。これでも一応抜け出してきた口なんじゃよ。」
「はぁ…いったい何が?」
抜け出してきた…か。
「風鈴童子様が今狙われておる。これでも一応気を付けてはおったのだがなぁ…」
「そんな状況なのになぜ風鈴童子様は都に?」
「都といっても大江山の都よ。他の都の支配者達との話し合いをしにな。」
クッソだましたのかよ…これだからこのお方は…
「あぁ…まさかそのお二方も?」
「まぁそうなるんじゃろうな。だから黒種童子、其方も気を付けてくれ。」
「はい…」
「まぁ、今回は派手にやったからのう。撫子と二人でのんびりしとるのもありじゃよ。」
「感謝します、薔薇童子様」
「だが風鈴童子様の危機が分かれば其方を呼び出すぞ。」
「呼び出してくれなきゃ僕が困りますよ。ずっと僕の忠誠を誓ったお方は風鈴童子様なのだから。」
「たとえ撫子を泣かせてもか?」
そんなの即答だ。風鈴童子様を守るためならば彼女を泣かせることになろうとも…
「はい。当たり前のことを聞かないでいただきたいです。」
「やはり其方は最高じゃ。ずっと期待しておるぞ、雪。」
「だから…はぁ。当たり前だ、紅。」
俺と薔薇童子様は…元幼馴染だ。なぜわかるかと聞かれると答えは簡単である夏の日仲の良かった奴二人がいなくなった。そのうちの一人が薔薇童子様なのだ。全く、あの日何があったのか聞いても答えそうにないからもうあきらめたがもう一人いたはずなのに…あいつはどこにいるのだろうか…今なら答えてくれるだろうか…
「なぁ紅、水はどうしたんだよ…」
「水は…陰陽師になると言っていた。だから、都に行くのだと…」
「それは何度も聞いた!俺が聞きたいのは…」
「分からないんだよ!水が一体どこに向かったのか…でもさ、もし本当に陰陽師になっていたら私たちの敵なんだよ!?」
「そうかもだけど…」
「私だって予想外だよ!?私と雪だけでも鬼になったの予想外だったのに撫子までなんてさぁ…なんか私たち悪いことした?」
「そんなの俺だって予想外だ…」
「それに雪だってなんか二重人格っぽくなってるし!」
「そ、それは…」
それは仕方がないのだ…だってこうでもしないと僕は…
「分かってるよ…分かってるけどさ別に私にぐらい…」
「薔薇様、それ以上はおやめください。」
「雪…」
「ほら、そういう顔しないでくださいよ。僕とあなたは上下関係がもうできてるんです。堂々としてください、薔薇童子様。あなたは、風鈴童子様に認めてもらっているお方なのだから。」
俺と薔薇童子様は確かに元幼馴染だしこんな風に砕けた口調で話すこともある。だけど…もうあなたは俺の知るあなたじゃない。あなたは風鈴童子様の隣に立って戦える()()()()()なのだから。水のことを聞くのはやっぱり駄目だったか。水…ずっとずっと探しているのになんでお前は見つかんねーんだよばか野郎。
「そうじゃな…昔のようになど行かないんじゃよな…」
「だからこそ自分の正体を撫子に明かさなかったのでしょう?」
撫子は決して紅ねぇさんと呼んでいない。薔薇童子様のことだ。きっと言っていないのだろう…
「さすがは黒種じゃのう。撫子には言わんでくれんか?あの子には少し重い話じゃ。」
「まぁそうかもしれないですね。じゃあ、風鈴童子様にもし何かあったらご連絡ください。」
「あぁ、分かった。水に関しても少し調べておこう。」
「ありがとうございます。」
「いや、童が誘わなければともよく思うからの…」
俺は頭を下げ最後の言葉を聞かないふりをした。ずっと昔から言っている薔薇童子様の後悔は気にしてはならないのだ。俺は少し急ぎめに屋敷に戻る。風鈴童子様の配下に下ってから俺は屋敷を賜った。まぁ言ってしまえば俺も部下を持っているのだ。風鈴童子様に救われてから3年。風鈴童子様ほどという訳では無いが俺を慕ってくれるものも現れた。
「黒種様、おかえりなさい」
「あぁただいま帰ったよ。撫子は?」
それがこのカラス天狗の闇だ。闇は山の中に閉じ込められていたから救い出したら懐かれて今はここで俺の手伝いをしてもらっている。
「撫子様は今アヤメ様と共にお部屋に籠っておいでです…やはりあまり他人や他妖怪を信用出来ないみたいでして」
「そうかい、まぁ予想していた通りだね…」
あんなところに閉じ込められていたのだ。そんなふうになっていてもおかしくないだろう。本当にあいつらは…彼女の部屋に入ると彼女はアヤメと共に何かを話しているようだった。
「ねぇアヤメさん雪にぃはどんなことをしてるの?」
「黒種様ですか?黒種様はですねさっきあったカラス天狗の子おりましたでしょう?」
「あぁなんかめっちゃ丁寧な物腰だった?」
「はい、彼はですね黒種様が助けてきたんですよ。」
「へぇ〜凄いのね雪にぃは」
「黒種様は強いですよ。ずっとずっと風鈴童子様を慕っていますし」
「風鈴童子様?それって一体誰?」
「我が大江山の大将ですよ。いつも正しく妖怪たちを救ってくれる優しいお方です。」
「薔薇童子様もそんな感じじゃない?」
「風鈴童子様と較べてはいけませんよ。薔薇童子様は確かにすごいお方です。でも、それは彼女が…」
「アヤメ、ストップだ。その話はあいつから箝口令(かんこうれい)が出ている。」
「黒種様お帰りなさいませ」
「雪にぃ!おかえり。ねぇ薔薇童子様がどうしたの?」
「お前は知らなくていいんだよ。アヤメと仲良くなっていて嬉しい限りなんだがなぁ」
「アヤメさんっていい人だね!色んなこと教えてくれる!」
「余計な事も入ってんだよなぁ…」
俺は思わずアヤメを少しじっと見つめると
「私がお仕えしていますのは薔薇童子様でございますから彼女の生活がより良くなるようにと思いまして」
「彼女は人間の頃の話を撫子に話す気はないよ。俺も話さない方がいいと思った。これでも言う?」
「我が主がそう仰ってるのなら仕方ありません。諦めましょう。じゃあ撫子さんまた明日参りますねカラス天狗の子とも仲良くなってみてください」
「が、頑張るわ!」
はぁ…ほんとにアヤメは薔薇童子様に心酔している。きっとそれは薔薇童子様が彼女を助けたからで…そう思わず考え込んでいると撫子が俺の着物の裾を引っ張ってきた。
「ねぇ雪にぃ私…」
「ん?どした?」
俺は抱き寄せて頭を撫でながら聞くと
「他の人たちが怖いの…アヤメさんも少し怖いし信じた人ほどみんな裏切っていって…」
「あぁ…そっか…」
「でもね、藤華ちゃんがいてくれたの。だから私ね別に平気だなぁって思ってたのに…瑠璃様が…」
「あんな奴に様なんか付けんな。瑠璃は俺が殺しといたから…だから安心しろ。」
「なっ…なんでこ、殺すひ、必要が…」
あぁやっぱり…彼女は…ダメだ。この世界に連れてきてしまっては…まだ人殺しがダメだとわかってる。
「なぁ、撫子。お前はやっぱり俺のそばにいてはいけない。」
「え…な、何で!?あっ…さっき言った言葉のせい?え?ご、ごめんなさい…い、嫌だよ」
そういって慌てるような顔をする撫子。だけどさ…お前はまだこちらの世界に踏み込んでないのだから…
「違うよ。お前はまだ俺たち側にいないんだから…お願いだよ、お前だけでも…こちら側にいないでくれ…」
きっともう既に水も俺たちと同じ『人殺し』の世界にいると思うから…だから、撫子お前だけは…こっちに来ないでくれ。
「ゆ、雪にぃ…?だって紅ねぇも水にぃも見つかってないんだよ?なんでそれなのに知ってるみたいな口調?」
「紅も、水も必ず俺が見つけてやる。だからさ…お前は静かに待っててくれ。今回みたいなことにならないように…」
「え…?やっぱり離れろってことなの?」
「ううん。少しの間待っていてほしいんだ。大丈夫。迎えに行ってあげるから。それにすぐ離れるわけじゃない。薔薇童子様から呼ばれるまでは近くに居られるよ。」
だから…お願いだよ。お前だけでも…
「す、少し考えさせてくれる時間…とかはくれないよね。まだ傍にいてくれるでしょ?」
「うん。傍にいる。」
俺は彼女を強く抱きしめる。ずっとずっと忘れられなくて大好きな初恋で最後の叶わない恋をした彼女を。だから…君だけは純粋に明るいままでいてもらえますようにその願いを込めながら俺は彼女を抱きしめた。
 一週間がたった今撫子は前の明るい性格に戻りつつある。だがしかしやっぱりあまり信じることは難しいようで闇とはまだ少し硬い表情が多い。
「雪にぃ~薔薇童子様とアヤメさんが来たよ!」
「あっ、あぁ今行く。」
予定だともう少しゆったりできるかなと思っていたがやっぱうまくいかないよな。玄関に向かうと撫子とアヤメさんはいなくていたのは薔薇童子様だけだった。
「すまんの~本当は二週間ぐらいの休みの予定だったのじゃが…」
「良いんですよ。それで今回は一体何の用で?あなたがここに来るというのも珍しい。」
「水のことじゃからそのまま来たのじゃよ。撫子の様子も見たかったしな。」
「そうなんですね…それで一体何が?」
ずっと話をそらしているように見えるのは気のせいだろうか?そういう所が彼女にはあるのは知っているんだが…なんか今日はあからさますぎるような。
「せっかく人が楽しい話から始めようとしとるのにほんとに其方は…」
「別に。暗い話になるのは大体予想着きますし。」
「はぁ…今回ねらわれているのは黒種童子、其方じゃ。まぁだから今回の自己防衛のためのメンツには其方も入る。まぁ其方は強いから囮に使うことにした。まぁもっと言ってしまえば今回陰陽師と戦うのは其方となる。一番危険な役目となると思うが…」
そんなことは別に承知している。思わずいぶかし気な目を彼女に向けると…
「その戦う陰陽師が木槿(むくげ)と言って赤い目に水色の髪を持つ陰陽師なのだが…」
あぁ…そういうことか。水色の髪。この髪はこの世界ではめったに見られない髪で持ってるものは異端とされる。まぁそれを言うなら薔薇様の真っ赤になっていく髪や俺の整いすぎた顔立ちもなのだが。この世界は色々と異端にされることが多いし愛してくれる人がいるときは愛してくれるし。まぁそんな感じなのだ。そして、俺たちの幼馴染、水の持つ髪色が…水色なのだ。しかも赤い瞳。はぁぁ…俺の戦う敵は水なのか…
「久しぶりに会いますよね、水となんて。何年振りかなぁ。」
「黒種…」
「そう心配しないでください。別に手加減なんてしませんよ。あっちだってしないだろうし。」
あいつが何よりも、誰よりも恨んでいるのは俺たち()()なのだから。
「じゃとしても…」
「薔薇童子様、そう心配しないでくださいよ。手加減は絶対にしません。まぁ、死ぬ可能性はあるので撫子に関しては…」
説明をしようと口を開くと…
「雪にぃ!どうゆうこと!?え?なんで?傍にいてくれるんじゃ…」
「撫子…」
抱き着いてくる撫子に思わず驚いていると…
「そ、それに水にぃさんのことを何で薔薇童子様が知ってるの!?」
「い、いつから聞いて!?」
「雪少し黙っておれんか?」
そう言って彼女は俺を制し撫子のほうを向き
「すまんの、撫子。黙っていて…この顔見覚えがあるじゃろう?」
そういって薔薇童子様は仮面を外す。自分の素顔を隠すための仮面を。
「え…紅ねぇさん…?」
「黙っていてごめんね、撫子。」
「紅ねぇさんも鬼になっちゃてたんだ…じゃ、じゃあ水にぃさんも!?」
そういって俺らのほうを向く彼女。水という名前は聞いていても詳しいことは聞いていないのか。よかった。なら…彼女に本当のことを話さなくても。
「本当にごめんね…水はわからないんだ。」
「え?だって一緒に…」
「それが紅もまさか同じ日に水までいなくなっていたなんて知らなかったんだ。」
これは本当のことだ。二人はバラバラにでていっていたのだ。だから、彼女はまさか水までいなくなっていたなんて予想外だったのだ。まぁそれを知らなかった俺は思わず彼女に詰め寄ったのだが…
「そっか…じゃあ水にぃが集まればみんな揃うね!ねぇそれまで雪にぃは生きているでしょう?傍に…いてくれるでしょう?」
「あぁ当たり前に傍にいてやるよ。でもな、俺ちょっと仕事が持ってこられたんだ。風鈴童子様からのご命令だから断るわけにいかないだろう?だから、アヤメさんと待っててくれないか?」
「戻ってくるんだよね?」
「うん。」
俺は彼女の頭を泣き止むまでずっと撫でていた。俺が死んでも大丈夫なことを願いながら…そして、彼女が俺と同じ道を歩かないようにと願いながら。
 一か月後。作戦決行の日。俺は薔薇童子様の屋敷に撫子を預けるために向かっていた。
「じゃあ、撫子。ちゃんと、アヤメさんの言うことを聞くんだぞ?」
「もう、子供じゃないんだから大丈夫だよ~。」
はぁ…もしかしたらこの戦いで俺は亡くなるかもしれない。そのためにもちゃんとしてほしんだがなぁ。いつも通りに笑う彼女が心配でたまらない。本当にこんな俺は戦えるのだろうか…
「アヤメさーん!!」
「あっ、撫子様と黒種様。ちょっと待ってください、薔薇様を呼んでまいりますので。」
「す、すいません」
「謝らないでください。あなただって結構上の立場なのですから。」
「はい。」
やっぱりなんか俺アヤメさんにきらわれてるようなかんじするんだよなぁ…うーん。
「黒種、待たせてすまんの。」
「あれ?いつもの恰好じゃないんですね。」
「あぁ。」
薔薇様の恰好はシンプルな赤い壷装束といつもの鬼女の仮面だった。いつも決して服装を変えない薔薇童子が変えたなんてきっと都に行くと大騒ぎだな。少し笑いながら撫子のほうを向き
「じゃあ、行ってきます。」
「う、うん!行ってらっしゃい!」
そういって手を振る彼女は昔と全く変わっていなくて愛しくて仕方ないのは俺だけの秘密だ。さぁ、陰陽師退治と行くか。俺と薔薇童子様は走り出す。大江山一の人間たちの住む場所に近い俺たちの思い出の場所である『花の森』へ。 
「薔薇童子様、本当に来るんですか?」
「あぁ。それは確定じゃよ。だってわざと風鈴童子様がにおいを残したんじゃからな。」
におい。それは生まれた時から持っているもので人や妖怪一人ずつ特徴がある。まぁゆってしまえばそれをわかるのが大陰陽師なのだ。本当に怖い奴らだ。そういうのには寿命が長い俺にも予想外なんだよなぁ…まぁ二日ぐらいは休め…
「うっわぁ…久しぶりにここに来たけど…相変わらず嫌な空気だなぁ。」
「はぁぁ!?なんでそんなに来るのが早いんだ!?」
俺は思わず怒鳴ってしまうとビックとしたようにこっちを見つめる奴。まぁ予想通りというかなんというか…変わんねぇな水。いつもいつも猪突猛進でさっさと動いたやつが勝ちと思っている。
「おぉぉぉ鬼!?やっぱりすげぇなここ!?先輩が言った通りじゃねぇか。」
「はぁ…本当に。こんにちは、小さな陰陽師さん。僕は黒種童子という。」
「お、お前…」
ま、まさか僕が雪ってばれたか!?やばぇ戦いづらく…
「噂の黒椿の死神か!?待っていろ!この天才陰陽師木槿様が倒してやるからな!」
そう言ってビシッと突きつけ決まったぁぁという感じに笑う元幼馴染を見て思ったのは
(めんどくせぇ)
だった。いや、こいつがこういう性格だったのは思い出した。思い出したのだが…なんかこんなにめんどくさかったっけ?って感じなのだ。普通はもう少し大人しくなってるんじゃ…思わず少し引き気味になっていると
「お、おい黒種。固まるな。元々こうゆう奴じゃったろ。まぁ変わって無くて安心というかなんというかという感じじゃが…」
「はぁ…まぁそうですね。そういや先輩とか言ってるので近くにいるかもです。そちらを頼みます。」
「分かった。あんな奴じゃが強いのは間違いない。気を付けろ。」
「了解でーす。」
はぁ…俺一人でこいつの相手疲れる…だから藤華や撫子居たんだけどなぁ…
「はぁ…めんどくさい。」
思わずつぶやくと何かがあいつの頭にカチンときたらしく
「何がめんどくさいだ!お前たちが人に迷惑をかけるからこんなことになっているのだろう!」
分かっている。水は親を殺されたのだ。こんな風に思われていても仕方ない…だけど…
「お前らのせいだ、どんだけの者たちが悲しんだ!どれだけの者たちが泣き悲しんだと思っている!」
それなのに…あぁ…ダメだ…言い返してはいけない…
「どれだけの者が…愛する人たちを恋しがったと…」
「そんなのそっちが勝手に勘違いしてるんじゃないか!!!」
風鈴童子様の気も知らないくせに…あの方がどれだけ平和な世界を望んでいるかもわからないくせに…
「どれだけの妖怪が自分の意志で妖怪になったわけじゃないかわかるか!?俺たちが人を殺すのは仲間を救うためだ!仲間たちが無事に平和に過ごせる場所を渡したくて…」
「そ、そんなのはこちら側のせいじゃないだろう!?第一に妖怪になったやつらは暴れるから…」
「自分が気づいたら妖怪になっているんだぞ!?逆にどうすりゃいいんだよ…」
「そ、それは…」
本当に。わからないことをそうゆう風に決めつけて言うから他人を怒らせるんだとずっと言っていたのに。
「もう何言ったって変わらない答えなのは別に知ってる。だから…ここで死んでくれ」
「はぁぁ!?もう本当にお前めちゃくちゃだな!?平和を望むとか言いながら!」
「そりゃぁ俺は風鈴童子様じゃないからなっ!」
俺は腰から剣を取り出し木槿のほうへ切りかかる。突然だったのに簡単に剣の受け身を取られてしまった…くっそ。
「はは、お前強いんだなぁぁ!」
あぁ…懐かしい。こんなこと前も言ってたな。いつも、いつも剣の稽古を頼んできてこっちはどんどんどんどん弱くなっているのに…あいつは逆に俺を越していって…それなのに毎日飽きずに俺とやって俺が負けてもこいつは
『やっぱ雪が一番だな!』
って返してくるから…悔しくてたまらなかった。俺たちの周りでどんどんでかくなっていく剣劇の音。あぁ…懐かしい。でもこんなので俺はいいのか?俺は撫子に戻ると誓った。だけど俺は誓ったから師匠の役に立つのだと…だから俺はお面につけてきた黒椿に願う
『神の遣い黒椿よ、どうか我に一類の力を与えたまえ。願うは目の前の敵を倒す力を。そして…彼に最後の良い夢を。そして、西を守る白虎、黒椿に力を。』
「や、やべぇ『北を守る四神玄武よ我に守る力を与えたまえ。』」
「はっ、甘いんだよ!何回ゆえばわかる、水!!」
俺は後ろから黒椿の舞をぶつける。そうすると水はふらっとなり倒れこんだ。そして、俺もまるで共倒れのように倒れこんだ。これは捨て身の作戦なのだ。なぜかって?俺にもこの黒椿があ、たるから…だ。
「雪にぃ!なに寝てるのさ!起きてよ!」
「お兄ちゃん!起きて!」
「う、うんん…おはよう、撫子、藤華。」
あぁ夢だ。だって目の前に彼女たちがいるのだから。撫子は鬼になってしまったし藤華は…死んでしまったのだから。そう、これが俺の術だ。『黒椿』は、即効性がないうえに幸せな夢を見せてくれる特典付きだ。目を覚ましたら…苦しい思いをすることになる。だから、最後くらいはいい夢を見れるようにという願いを込めて俺はこの花を使う。でもこれは夢だから勝手に体や口は動く。
「なぁ撫子、藤華。水と紅は?」
「あぁ。二人は広場で剣の稽古中。なんかね今日は日向(ひなた)師匠がやってきたからさ。」
あぁ。これは…師匠がいなくなった時の夢か…
「日向師匠が…行こう。」
「はは、さすが一番弟子だね。」
「あぁ確かに。そうだよねー。」
そんな事色々言われてたな…でもきっと師匠の一番弟子は…
「おぉぉ!雪―!」
「雪―!撫子と藤華も!」
「あっやっと起きたんだね、雪。」
「日向師匠!お久しぶりです!」
日向師匠は俺にとって憧れの人だった。いつも色々なところを回っているし偶にしか森には帰ってこなかったけど…たくさんのことを教えてくれた。
「あのね雪。俺は少しいつもより大変なところへ行くつもりなんだ。だから、お別れだ。」
こういって一年後彼の姿は町へ戻ってくるがそれは…ぐちゃぐちゃになっていた。妖怪にやられたと噂が立っている中俺だけは違うと断言できた。だって俺は知っている彼は…
「いつ出発するんです?」
「明日だ。だから、それまでに教えれる事を教えとこうと思ってね。」
「わ、分かりました!お願いします!」
師匠は妖怪たちと人間の橋渡しをしていたのだから…そんな風に思っていたら場面が変わり俺の目の前に旅支度をした師匠の姿。そして彼は…俺の頭を撫でながらこう言ってのだ。
「なぁ雪。お前は鬼になるかもな。」
「え?」
まるで師匠は見透かしたように話し始めた。
「たとえ鬼になってもきっとこの力は力になってくれる。だけど…決して復讐に使ってはいけないよ。この力は守るためにあるんだから。」
俺は師匠に…なんて答えたんだっけ…?そう思い次の言葉を待つも何も聞こえず俺は闇に埋もれていった…
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