社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
「あ、あの、実篤(さねあつ)さん……?」

 風呂場の磨りガラスに、くるみの黒服を纏ったシルエットがぼんやりと映って、実篤は思わず肩をビクッと跳ねさせて「ひゃいっ!」と〝変〟な声を上げてしまった。

「ごっ、ごめんなさい。びっくりさして」

 風呂場の中、実篤が跳ね上がったのが見えたのだろうか?

 いや、そんなことはないと信じたい実篤だったけれど、奇声を発してしまったことは確かなので、申し開きのしようがないと諦めた。

 シャワーの水音が邪魔で、くるみの声が聞き取りづらかったから。
 一旦コックを捻ってシャワーを止めると、実篤は握ったままだった手を、慌てて愚息から離して「大丈夫よ。どうしたん?」と極力声を抑えめにして問いかけた。

「えっと……凄く(ぶち)くだらんことなんじゃけど……その、うち、もう一回バニーちゃん着ちょった方がええですか? それとも――」

「いっ、今のままでお願いします!!」

 実篤は、くるみの言葉をさえぎるように思わず力説してしまっていた。


「えっ?」

 あまりに前のめりになってしまったからだろうか。

 くるみが外から驚いた声を出したのが聞こえて、内心(やっちまった!)と思った実篤だ。

 だが、済んだこと。ジタバタするだけ無駄だと開き直ることにした。

「お、俺っ、くるみちゃんが俺の服着てくれちょるん、すげぇ良いって思うたんよ。だから(ほいじゃけ)、そのままでおってもらえたら滅茶苦茶(ぶちくそ)嬉しいです」

 嘘偽らざる本音を述べて、くるみに「わかりました」と納得してもらった。
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