社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
「だって考えてみたらさ、俺が中学に入学した時、くるみちゃんはまだ幼稚園児だったわけじゃろ?」

 そう考えると、何だか犯罪に近いものを感じてしまう実篤(さねあつ)だ。

(こんな俺がくるみちゃんみたいに可愛らしい女の子を独り占めしてもええんじゃろうか)

 情けないとは思うけれど、そんな漠然とした不安が、常に実篤の頭の片隅を占拠している。


『うちが実篤さんがええって言いよーるんに、何でそんな卑屈な言い方するん? いくら実篤さん本人でもうちが好きな人のこと『俺〝なんか〟』っちゅうて卑下するんは聞き捨てならんのじゃけど』

 電話の向こうから、ぷぅっと頬を膨らませた子リスみたいなくるみの姿が見えるようで、実篤は思わず笑ってしまった。

 怒られていると言うのは分かっていても、(くるみちゃん、可愛いのぅ)と思わずにはいられない。

 くるみと同い年の妹・鏡花(きょうか)がやってもふてぶてしくしか見えないだろうに、惚れた弱みというやつは厄介だ。

『そんなん言いよってじゃけど、それなら(ほいじゃあ)うちがその……宇佐川(うさがわ)さんじゃったっけ? その彼と付き合うことにしました、っちゅうたら実篤さん、大人しゅう引き下がるん?』

バカ(バッ)! ダメに決まっちょろーが!」


それだったら(ほいじゃったら)つべこべ言わんと堂々としちょって下さい! それで(ほいで)うちを誰にも負けんくらい思いっきり愛されちょるってとろけさせて?』

「はい!」

 くるみからの畳み掛けるような口撃(こうげき)に、思わず背筋をピーン!と正して即答してしまってから、実篤(さねあつ)は心の中で
(くるみちゃん、小悪魔じゃ!)
 と思わずにはいられない。

(そこがホンマ可愛ゆーて堪らん(やれん)のじゃけど!)


 そんなくるみが、電話先で『実篤さん、いま確かに「はい!」っておっしゃいました(言うちゃったです)よね?』と言質(げんち)を取ってきて、実篤は心の中、「こっ、今度は何なん? くるみちゃぁ〜ん!」と叫ばずにはいられなかった。
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