eスポーツ!!~恋人も友達もいないぼっちな私と、プロゲーマーで有名配信者の彼~
家に入ると、木材と畳のいい香りがした。
家のなかは風が通るように設計されているのか、外よりも涼しい。
大きな丸い和紙で包まれた照明は、和でありながらも新しい趣を感じさせる。

「素敵……」

思わずそう呟くと、ヤマトは照れくさそうに額を掻いた。

「そう? 昔って感じだろ? ハルみたいな最近の子には古くさいって思われるかと心配してたよ」

「最近の子って、ヤマトも同い年じゃん」

「まぁ、そうなんだけどさ。こっち来て。今日は家族もいないから……その、ふたりきりだから気を使わずに」

――ふたりきり。

意識しないようにしてたのに、ヤマトの言葉からそれを聞くと嫌でも意識しちゃうじゃない!

いけない。今日はアタックウォリアーズの練習に来てるんだ。もちろんヤマトといい感じになれたら嬉しいかもしれないけど……ってなに考えてるのよ!

自分がしてしまったイケない妄想を手で振り払い、ヤマトのあとを着いていく。

まるで宴会場のような広さのお座敷に、大きなテレビが置いてあった。

「ここでしよう。今、飲み物持ってくるから座ってて」

ヤマトは座布団を置いて、部屋から出ていった。
落ち着けず部屋を見渡すと、高級そうな掛け軸や壺が目に入る。

ヤマトが有名実況者でなくても、プロゲーマーじゃなくても、きっと私とは住む世界が違っただろうな。

……ヤマトが戻ってくる前に予習しとかないと。
私はノートを開き、今日クリアしたい課題を煮詰めていく。

「お待たせ」

氷の入ったジュースをお盆に乗せて、ヤマトが戻ってくる。

「あ、ごめん! ありがとう」

「で、今日はどんな感じの練習にするか決めてる?」

「うん。ちょっとそのことでヤマトにも相談に乗ってほしいんだけど……」

8月の大会にはヤマトは出ない。大きな大会であるけど、どちらかというとアマチュアが多い大会だからだ。実際プロゲーマーの登竜門とも言われている大会だから、実力者が多い大会なんだけど……。ヤマトが出場しないなら、遠慮せず相談もできる。これを活かさない手はない。

勝負は腕や実力だけじゃない。知識や作戦があってこそ勝てるのだ。

そのことを、私は4月からアタックウォリアーズを始めたことで実感していた。

「まず、私のメインはもちろんストロベリーなんだけど……大会じゃストロベリーだけで勝ち上がるのは難しいかもしれないって考えてるの」

上位勢になるために、どんなキャラにも対応しやすいストロベリーを使ってきた。だけど、大会ではオフライン環境で戦ううえに、上位勢を超えるプレイヤーが集まる。それなら、相手が使ってくるキャラクターとの相性を考えて、使えるキャラを増やした方がいい。

実際、ストロベリーだとどうしても相性が悪いキャラも出てくる。

「さすがだね。使えるキャラは増やした方が無難だろうね。実際、アタックウォリアーズには70体近いキャラがいる。使うキャラを1体に絞る人もいるけど、ハルは器用だから他のキャラの練度も上げられると思う」

そういうヤマトもメインは剣士のラピスだが、遠距離キャラ、中距離キャラと使えるキャラを揃えている。

「それでね、考えたの」

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