一夜限りのはずだったのに実は愛されてました
「お兄ちゃん?今いい?」

『いつもお世話になっております。すみません、今書類が手元にないので折り返しさせていただきます』

そういうと電話が切れてしまった。
きっとお父さんが近くにいるんだ……。

10分するとお兄ちゃんから電話が来た。

『紗夜、ごめん。遅くなった』

「ううん。忙しいのにごめんね」

『お見合いのことだろ?俺はあんな奴と結婚してほしくない。あんなデリカシーのかけらもないような男のところに行く必要はない。紗夜が苦労するのが目に見える。こっちのことは気にするんじゃない』

「ごめん、ごめんね。お兄ちゃん。私、妊娠してるの」

『え?お前付き合ってる人がいたのか?』

「ううん。でも大好きな人の子供なの」

『それって……付き合ってないんだろ?それなのに産むのか?お前簡単にいうなよ。子供を産むのも育てるのも並大抵なことじゃないんだぞ』

お兄ちゃんのいうことはよくわかる。
でもこの前お見合いをしてみてわかった。
自分が1番好きな人の子供を産みたいって。
大吾さんと結婚して、大吾さんの子供を産むなんて考えただけでも吐き気がする。無理。
だからこそわかった。
大好きな人の子供を産みたい。

「お兄ちゃん、わかってるけど彼の子供だから欲しいの。お見合いを断る私に、家業の手伝いすらできないなんて申し訳ないって分かってる。お父さんに縁を切られる覚悟もしてる。でも産みたい」

『紗夜、本当によく考えてくれ。お見合いは断ってもいい。でも子供のことは一生のことだ。可愛いだけじゃない、大変なこともたくさんあるんだぞ』

「うん」

お兄ちゃんは私の意思が固いと思ったのかそれ以上何も言わなかった。

『紗夜、お兄ちゃんはいつでもお前の味方だからな』

私は鼻声になりながらお兄ちゃんに「ありがとう」と伝えた。

『お見合いは俺から父さんに話しておくから』

「赤ちゃんのことは言わないで!」

激怒して、子供を堕ろせと言われることが目に浮かび私は慌ててお兄ちゃんにすがった。

『分かった』

そこまでいうと電話を切った。

お見合いを断ってもいいなんてお兄ちゃんはどんな気持ちで言ってくれたんだろう。この話は相手にとってではなく、うちにとってメリットの大きい話だった。この話がなくなるとうちはどうなるんだろう。
考えれば考えるほどに胸が苦しくなる。
でもこれだけは受け入れられない。
勘当されても仕方ない。
家族を見捨てるのか?と言われればそうなのかもしれない。

でも私はこの子だけ大切にしたいと思ってしまった。
お腹に触れてみるとまだぺたんこのまま。
本当に妊娠しているのかさえわからない。
でもさっき見た心臓を止めることだけはできない。

夜になり、絶えず鳴り始めた父からの電話。
お兄ちゃんがお父さんにお見合いの話をしてくれたのだろう。
スマホの表示に実家や父のスマホの番号が出るたびに私は身体を固くし、ひたすら切れるのを待った。

お兄ちゃんからメッセージが届いた。
【父さんからの電話に出なくていい】
それだけ書かれていた。

きっと怒ってるんだ。

その後、何度も鳴り続ける電話に私は画面表示を見るのが耐えられず電源を切った。
< 25 / 53 >

この作品をシェア

pagetop