一夜限りのはずだったのに実は愛されてました
日曜に拓巳さんは買い出しに行き、私との生活基盤を整えてくれた。
とはいえワンルームなのでとても狭い。
ソファとベッドがかなりの面積を占めている。
拓巳さんはソファで寝ると言って昨日は本当にソファで寝た。
背の高い彼にとってとても窮屈だったはず。
自分のマンションに帰ることを勧めても、私が心配だから、とここにいてくれる。
私は心配事が減ったからか、拓巳さんがそばにいてくれるからかムラはあるが少しつわりがいいように思う。

「紗夜、紗夜の体調が良くなったら式もしような。新居はどこがいい?」

「式だなんて。入籍だけでいいです。新居も拓巳さんが働きやすいところでいいです。私は仕事を続けてもいいんでしょうか」

「仕事は続けてもいいさ。体調を見ながらだろうけど、家族経営みたいになるな」

私はファービスでこのまま働けたらどんなに楽しいかと思うが、みんなはどう思うのだろうかと不安がよぎる。
付き合ってなかった私たちのできちゃった結婚についてみんなの反応が怖い。

「それから、式もするよ。紗夜にドレスを着させてあげるからな」

「え?」

「女の子はやっぱりドレス着たいだろ?大丈夫。お腹が大きくなる前にちゃんと考えような」

拓巳さんはどんどんと私が思わなかったことを言い出す。

私はただ、拓巳さんがそばにいてくれさえすれば何も望まないのに。
望むなんて贅沢をしたらいけない、と戒めた。

「拓巳さん。私は結婚にあまり願望がなかったので本当に式はしなくてもいいんです。拓巳さんもまさか結婚するなんて思っていなかったでしょう。だから私は入籍だけで十分です」

私の顔を覗き込むように拓巳さんは見つめてきた。

「紗夜、俺にはちゃんと本音で話してくれよ。これから夫婦になるんだからな」

「はい」

「拓巳さんも私に言いたいことがあったらなんでも話してくださいね」

私は大好きな拓巳さんと結婚できて嬉しい。
彼を不幸にしたくないから、私のできる全力で彼のことを幸せにしたいと思った。
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