一夜限りのはずだったのに実は愛されてました
マンションの玄関に立ちインターホンを鳴らした。

日曜の夕方だから玲子がいるとは限らないとは思っていたがやはり不在のようだ。
電源を落としたスマホを見つめ、電源を入れるのをためらいマンションの部屋の前で立ち尽くしてしまった。

しばらくすると流石に寒くなってきた。
お腹の赤ちゃんが心配になり、仕方なく玲子の部屋を後にしようと帰りかけた時、偶然にも玲子が帰宅した。

私は玲子を見るなり、涙が溢れ、抱きついて泣き始めた。

「紗夜?どうしたのよ」

「玲子、私もうダメ。もうどうしたらいいのかわからない」

私を抱きとめ、宥めるように背中をさすってくれる玲子。

「紗夜、こんなに身体が冷たくなってるじゃない。ほら、部屋に入って」

鍵を開け、部屋の中に入れてくれた。
暖房をつけ、私をヒーターの前に座らせてくれた。温かいレモネードを出され、やっと落ち着いた。

「ごめんね、急に来て」

「それはいいけどどうしたのよ。紗夜がこんなになるなんて初めて見たよ。何があったの?」 
私は上司と一夜の関係になり妊娠したことや、その人のことが私は大好きだから産みたいこと。相手に責任を取ると言われ結婚しようと言われてること。実家の親に言われた政略結婚を断ったことなど、ここ最近の話を一気に打ち明けた。

「そっか。大変だったね」

玲子は中学からの友達で大学は別だが、同じ東京に住むとわかり近くに住むことに決めるくらい仲がいい。

「ねぇ、紗夜。でも紗夜が大好きな人なのにどうして結婚しないの?あいてもしようって言ってくれてるんだよね?」

「うん。私は大好きだけど彼は私を好きじゃないから。責任を取るって言うだけ。子供は可愛がってくれるかもしれない、けど私は子供の母親でしかない。そんなことを思いながら一生を生きていくなんて辛い」

「でも好きなら一緒にいたいと思うじゃない。なら私は結婚したらいいと思う」

「一緒にいたいよ。でも子供を理由に彼を縛ることになる。縛り付けて一緒にいてもらうなんて出来ないよ」

「そうか。辛いね」

玲子に話を聞いてもらうとお腹の中に溜まっていた感情が吐き出され、気持ちが整理される。

「でも1人で東京で育てるの?1人育てるのはかなり大変だと思うよ。ましてや仕事も辞めなきゃならないんだよね?かといって福岡に帰ることもできないよね?」

私は頷いた。
もちろん福岡に帰ることなんてできない。
お見合いを断り、結婚するといったのにもうダメになったなんて。しかもシングルマザーになりたいなんて言えない。
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