一夜限りのはずだったのに実は愛されてました
「紗夜?大丈夫か?」

「はい……」

私の目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
膝には涙でシミがたくさんできていた。
そんな私を拓巳さんは困った顔で覗き込み、オロオロしていた。

「拓巳さん、私も拓巳さんのことが大好きです」

「え?!」

「ファービスで働き始めてからずっと好きでした。だから例え拓巳さんにとって遊びでも私にとってあの夜は一生の思い出でした。まさか赤ちゃんを授かるなんて思っても見なかったけど、知った時は本当に嬉しかった。拓巳さんの子供だから絶対に産みたいと思ったんです」

それだけ伝えると拓巳さんは狭い車内にも関わらず、身を乗り出してきて私を抱きしめてくれた。

「紗夜は俺のこと何とも思ってないんだと思ってたんだ。まさか紗夜がそんなふうに思っていてくれたなんて」

ぎゅっと力一杯に抱きしめられ、その力強さに驚いた。

「い、痛いです」

そういうと拓巳さんは飛び退いた。

「ごめん、ごめんな」

私は首を振った。

「まさか拓巳さんが私のことを好きでいてくれたなんて思わなかったんです。拓巳さんは子供ができたから責任を取るって言ってたから」

「それは、これで紗夜が俺のところにいてくれると思ったから。あの夜から紗夜は俺のこと避けてただろ。けどこれでもう俺のものだと思ったんだよ。責任を取るなんて言ったけど内心は紗夜が俺の子供を妊娠したって聞いて天にも昇る思いだったんだ」 

今度は私の手を握りしめ、私の目を見てきた。

「紗夜、もうすれ違わない!ファービスに来てからずっと紗夜のことばかり気になって仕方ないんだ。俺は紗夜が大好きだ」

「拓巳さん」

私は拓巳さんの言葉に胸の奥が締め付けられるように苦しくなった。
拓巳さんに私のハートを鷲掴みにされてしまった。
私だって拓巳さんが大好き。
もうすれ違いたくない。
私も彼の手を握りしめた。

「拓巳さんが好きです」

すると拓巳さんは私に近づいてきた。
私はもう拓巳さんから視線を外すことはできなかった。
目を閉じると同時に拓巳さんの唇が私のものと重なった。
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