一夜限りのはずだったのに実は愛されてました
「さぁ、せっかく2人が来てくれたのよ。みんなで美味しくいただきましょう」

明るい母の声に私たちはテーブルにつくとお酒が注がれた。
拓巳さんは父とお兄ちゃんとグラスを合わせ、グイッと呑むと父は喜んでいた。
お兄ちゃんはあまりお酒に強くないためだ。

「松下くんは呑めるのか?」

「ほどほどには。嫌いではないです」

それを聞いてますます嬉しくなったようだった。
昨日まではこんな展開になるなんて思いもしなかった。
拓巳さんが家業を助けてくれるために動いてくれたことも大きかったのだろう。
でも、まさか父が私を手元に置きたいからお見合いをさせようとしていたとは思いもよらなかった。
父の心の内に触れ、私は胸がいっぱいになった。

「紗夜。昔からお父さんは心配性で、紗夜が遊びに行くのもこっそりついて行ったくらいだったのよ。東京に行くのだって本当に泣き泣きだったの。そのくらいあなたが可愛いのよ。だから許してあげてね」

母にこっそり耳打ちされ私は頷いた。
私も父から愛されていたんだと実感した。

両親にもてなされ、拓巳さんは父と飲み明かし家に泊まることになった。
私が高校生まで使っていた部屋に布団を敷くと拓巳さんはごろんと横になった。
だいぶ飲んでしまったから目がとろんとしている。

掛け布団をかけてあげると目を閉じてしまった。
私は寝顔に向かいって声をかけた。

「拓巳さんありがとう。何もかも拓巳さんのおかげです。大好きです」

拓巳さんは私の声が聞こえたのか、布団から手が出てくると私の頭をポンポンとした。
そのまま力尽きて寝てしまった。
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