一夜限りのはずだったのに実は愛されてました
「お父さん、お母さん。必ず紗夜さんを幸せにします。私にください」

そう言うと改めて拓巳さんも頭を下げてくれた。

私は両親の気持ちが聞けて涙が止まらなくなってしまった。
嗚咽が漏れるとみんなの顔が上がり、私を見つめてきた。

拓巳さんがハンカチを出し、私に手渡してくれる。
私はとめどなく流れる涙にしゃくりあげる声が大きくなる。

「紗夜は昔から泣き始めるとなかなか泣き止まないのよね。泣くだけ泣いちゃいなさい」

母はいつものことのように言い放った。

「松下くん、でも順番が違うのは許し難い。まさかうちの娘が結婚前に妊娠させられるとは」

「はい!申し訳ありませんでした」

拓巳さんは慌ててまた頭を下げる。

「でも貴文から君の話を聞いてるよ。とても誠実でうちの仕事にも関わってくれていると聞いている。君のお兄さんにも手伝ってもらっているようだな。申し訳ない。ありがとう。こんなに助けてもらってるのに君を殴るわけにもいかないな」

「お父さん!」

私は慌てて声をかけると拓巳さんに制される。

「殴られてもしかたないと思ってきました。それだけのことをしましたから」

「いや、そんなことを言ったら私も紗夜に殴られるようなことをしいてきた。だから私はそんな立場にない」

「お父さん。俺は紗夜さんのことがずっと好きでした。結婚し、子供を持てることをとても幸せに思います。これからもよろしくお願いします」

拓巳さんがそういうと父も頷いてくれた。
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