独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
いつになく楽しそうな笑顔で交通の便をちらつかせる奏一に、結子も一瞬気持ちが明るくなった。
結子の実家も都内ではあるが、二十三区外のため都心にある職場までは乗り継ぎが二回必要だ。そこに待合と徒歩移動の時間を合わせれば、通勤にはいつも一時間近く要してしまう。それがメトロ一本で行き来が可能というのは確かに魅力的だ。
しかし素直に浮かれることは出来ない。
「え、ちょっと待って……なんで私の職場知ってるの!?」
なぜ彼は結子の職場を知っているのか。
入谷兄弟とは父同士の仕事の関係で、幼少期より多少の親交はあった。たまたまピアノのスクールが同じだったこともあり知り合ってからの年数そのものは長い。
だが小・中・高と学校が被ったことは一度もないし、そもそも年齢が四つ違うので同じ出身校だとしても接点らしい接点はない。
もちろん共通の友人もほとんどいない。なのに結子の現在の状況を事細かに知っているのはどうしてなのか。
「え、釣書に書いてあったじゃん」
「へ、へーえ……釣書なんて用意してあったんだぁー……見せてもらってなぁーい……」
あっけらかんと言われてしまえば、驚きを通り越して脱力するしかない。