独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 奏一は本気で結婚する気満々らしい。何かの冗談だと思っていたのに、今日のお見合い後のビジョンまで視野に入れて会話を展開されてしまう。

 意味がわからない。嘘や偽りではなく、本当にわけがわからない。からかわれているようにしか思えない。

 黙ってしまった結子のふくれ面を見て、奏一が小さく苦笑する。胡坐をかいた膝の内に肘を乗せ、頬杖をついて結子の顔を斜めに眺める。

「しょうがないでしょ、兄さんはもう結婚したんだから」
「……それ、全然知らなかったのよ」

 そう、結子は知らなかった。本当の本当に、今夜は響一との見合いの席だとばかり思い込んでいたのだ。

 結子は昔から、奏一にはいじわるをされてばかりだった。小さい頃は後ろから急に驚かされたり、髪や頬に触られたり。思春期の頃は成績のことを引き合いに出して『嫁の貰い手がない』とからかわれたり、ピアノのコンクールで緊張しているところを茶化されたり。

 大人になってからもパーティに着ていったドレスやメイクが似合ってないとか、酒を飲みすぎて酔う女はだらしないと怒られたりとか、とにかく結子が何かしようとすると彼はいつも邪魔ばかりするのだ。

 その点、響一は優しかった。表情が豊かな奏一に比べるとやや冷たい印象もあるが、結子は彼が誰よりも優しい人だと知っていた。

 奏一にからかわれて困る結子に、いつも助け船を出してくれた。ぽろぽろと涙を流していると不器用にその雫を拭ってくれた。結子にいたずらばかりする奏一を叱って、彼から結子を守ってくれた。

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