離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

「せ、専務……」

 明るいトーンのブラウンスーツ。サイドや襟足を外に跳ねさせた、チャラいヘアスタイル。れっきとしたビジネスマン、しかも重役であるにもかかわらず、まるでホストみたいなその格好はいつもながら趣味が悪い。

 ……って。こんな危機的状況でファッションチェックをしている場合ではない。

「噂話はもう少し小声でするもんだ。弁解があるなら聞いてやるから、俺の部屋に来い」

 ひえっと声が漏れそうになり、肩が小さく跳ねた。怒られる。絶対に怒られる。

「しょ、承知しました……」

 減俸か、左遷か、はたまたいきなり首が飛ぶか……。

 雨音さんの同情するような眼差しに見送られつつ、私は死刑宣告を受ける直前の被告人のような心境で、専務の後についていった。

「失礼します」

 完全に委縮しながら、初めて専務室に足を踏み入れる。デスクや応接セットなどの配置は常務室とほぼ同じだが、明らかに違う部分もあった。

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