誘拐婚〜ある日、白無垢が贈られて〜
「計さん、家に帰してください!結婚なんてできません!」

雅は足を止めようとするものの、体は勝手に動いていく。まるで何者かに操られているようだ。抗おうとする雅の手はスルリと計に握られる。

「雅、俺は人間の男とは違って強いからお前のことを守れる。家事は屋敷に使用人が何人もいるからしなくていいし、育児も雅が疲れている時には乳母に交代してもらおう。もちろん、俺も赤ん坊の世話をする。雅が病気だったら一日中そばにいるし、マナーだって完璧だ。……幸せにする」

ヒソヒソと先ほどから妖が喋っている。雅が意識をそちらに集中すると、妖たちはチラチラと雅を見ていた。

「まさか、人間の女を連れて来るなんて……」

「まあまあ、結婚相手が見つかったしいいでしょう。それに人間は、我々とは違って子どもをたくさん産めますから」

「でも計様に捕まってしまうなんて、かわいそうなお方……。これから先、屋敷から果たして出してもらえるかどうか」

ゾッとするような会話に雅は計の手を振り解こうとするが、それも叶わない。目の前にはもう本殿がある。

「さあ、雅。俺たちの結婚式の始まりだ」

計の優しい微笑みは、雅にとっては悪魔の笑みと変わらないように見えた。

妖に魅入られた娘は、決して逃げることはできないーーー。
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