振られた私を御曹司が拾ってくれました。

すると突然、スポットライトが会場の一番前に用意されたステージを照らした。

一斉に皆が拍手をしている。


氷室専務が、登場したらしい。
私は人の隙間を探し、何とか専務が顔だけ見える位置を見つけた。

専務はマイクを持って、皆に挨拶をする。


『本日は、お忙しい中お集まり頂き、心より御礼申し上げます。私は、氷室 俊(ひむろ しゅん)と申します。これから……………………………』


(…本当に“しゅん”っていう名前なんだ…)


氷室専務は挨拶で自分の名前を名乗っていた。
あのとき病室で聞いた“しゅん”という名前は嘘ではなかった。
あんなにスゴイ人が私を抱えて病院に連れて行ってくれたのだと思うと、改めて恐縮する。

氷室専務に続き、重役が数名挨拶をした後、盛大な乾杯が行われた。

私は配られたシャンパンを飲み干すと、早速バイキングの料理テーブルへと向かった。
しかし、私の目的は、お料理よりも他にあるのだ。

もちろん…それは大好きな、ケーキなどのスイーツ達だ。

私は今、スイーツ開発部に所属しているが、それは新入社員の時からの夢だったのだ。
その夢が、今年やっと叶い、仕事にもやりがいを感じているところだ。
もともと、この会社を希望した理由は、大好きなスイーツの仕事に関りたかったからなのだ。


バイキングのテーブルには、定番のショートケーキやチョコレートケーキ、フルーツを贅沢に使ったタルト、レアチーズやムースなど、どれを見ても美味しそうだ。

ゴクリとのどが鳴る。

(…よしっ!最初はチョコレートケーキから攻めようかな…)


私がスイーツを取るために用意されたトングを掴もうとした時…


「キャー美味しそう!どれにする…チョコレートケーキかなぁ!」

女性の5人組が私の前に出て来た。
他社の女性だろうか?ここは譲るしかないが、チョコレートケーキは残しておいて欲しい。

しかし、その女性5人は皆お揃いのように、チョコレートケーキを選び、持って行ってしまった。
チョコレートケーキは、残り5個だったのだ…。


(…うっ…嘘でしょ!悲しすぎる…)


私はその場でショックのあまり項垂れた。大好きなチョコレートケーキはもう残っていない。


しばらくその場所で立ち尽くしていると、後ろからクスクスと笑い声が聞こえてきた。
私は驚き振り返ると…。


「君はチョコレートケーキがそんなに食べたかったのかな?分かりやすくガッカリしていて、笑ってしまったよ…」


なんと、私の後ろでクスクスと笑ったのは、氷室専務だった。


「ひ…ひ…氷室専務!」

「そんなに驚くなよ、やっと周りの人を撒いて逃げてきたら、面白いものを見せてもらったな。」

「面白いなんて…酷いです…本当に美味しそうだったのに…」


私は思わず涙目になっていたようだ。
それを見た氷室専務は慌てた表情をする。。


「お…おまえ…泣くなよ…そんなにチョコレートケーキが食べたかったのか?」


私はコクコクと頷いた。
チョコレートケーキを取られたショックで、氷室専務だということを一瞬忘れていたようだ。


「仕方ないな…泣かせたのは俺のせいでもあるから…チョコレートケーキ食べさせてやるよ。パーティーが終わるまで待て。」


そう言い残すと、氷室専務はどこかに行ってしまった。


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