振られた私を御曹司が拾ってくれました。

チョコレートケーキを諦めた私は、フルーツタルトをパクリと頬張った。
洋ナシや桃、イチゴなどがぎっしりとタルトに乗っている。

フルーツの酸味と、タルトの甘く香ばしい味が何とも言えず美味しい。
カスタードクリームも味をまろやかにしている。
私は一人で口角を上げていた。


タルトを食べ終えて、一息ついたとき、急にさっきの出来事を思い出した。

よく考えてみると、せっかく氷室専務と話すチャンスがあったのに、関係のないチョコレートケーキのことだけしか話が出来なかったのだ。またとないチャンスだったのに、自分の愚かさが嫌になる。
先日の御礼を伝えることが結局できなかった。

しかも、すごく失礼な態度を取ってしまったことも後悔する。

思わず“はぁ~っ”と大きなため息が出る。

ただ、少し気になったのは、専務はチョコレートケーキを食べさせてやると言っていた。
しかし、有り得ない話だ。もう専務と話す機会は恐らく無い。



パーティーがお開きになり、私は帰る支度をしてホテルのロビーを歩いていた。
ホテルのロビーでは、まだ仕事の延長戦のように、名刺交換や挨拶する人たちでごった返していた。
私はその人たちをすり抜けるように、歩いていると、誰かが私の名前を呼んだ。


「葉月さん、葉月琴音さん…お待ちください。」


その人は私のフルネームを呼んだ。
驚きながら振り返ると、どこかで見たことのある男性が私を呼んでいた。


(…えっと…この人…誰だっけ…)


「葉月琴音さんですよね?…私は氷室専務の秘書で桐生といいます。」


(…そうだ…美優が言っていた、専務の秘書さんだ…)


「あ…あの…何でしょうか?」


氷室専務の秘書が来てしまうなんて、やはり専務に失礼な態度をとったからなのだろうか。


「氷室専務からあなたを案内するように言われました。どうぞこちらへお越しください。」


秘書の桐生さんは、そう私に伝えると速足で歩き始めた。
本来であれば逃げたいところではあるが、ここで逃げると会社へもう行かれなくなってしまうのではないかと不安になった。
私は仕方なく桐生さんの後ろを追いかけた。

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