振られた私を御曹司が拾ってくれました。
その夜、駿は帰ってこなかった。
あの女性と一緒だったのだろうか。
いろいろな事が頭の中で暴れていて、一睡もできず、心臓に何か重いものが乗っているようだ。
翌日、私はなるべく何も考えないように、淡々と会社に行く準備をして、いつもより少し早い時間に家を出た。
会社のロビーを歩いていると、運が良いのか、悪いのか、駿と秘書の桐生さんが、何か打ち合わせをしながら、歩いてくるところに出会ってしまう。
私は気が付かれないように、向きを変えて速足で歩き出したが、駿に見つかっていたようだ。
「琴音、ちょっと待ってくれないか。」
追いかけてくる駿から逃げるように走ったが、駿に掴まってしまった。
「氷室専務…離してください。何か私にご用でしょうか?」
掴まれた手を振りほどいて、背の高い駿の顔を見上げた。
すると、駿はなぜか泣きそうな表情に見えた。
「琴音、きっと誤解があると思うから、話をする時間をくれないかな…今日の夜、ゆっくり話をしよう。」