振られた私を御曹司が拾ってくれました。

たぶん、誤解では無いはずだ。もう駿の嘘は聞きたくない。
彼女と車に乗るところを見てしまったのは、まぎれもない事実だ。


定時で仕事を終わらせ、急いで帰った私は家のキッチンに立っていた。
今日は、作り置きをして、凍らせてあったビーフシチューを、温めて食べることにする。

夕食を作る元気が出ない。

こんな時のために、シチューは保存用の袋に小分けになっている。
その一つを冷凍庫から取り出して、そのままレンジに入れた。

温まったシチューを、お皿に移していると、“カシャン”とドアの開く音がした。
駿が帰ってきたようだ。

「…琴音、ただいま。」

「お帰りなさい。お疲れ様です。」

努めて普段通りに接することにした。
しかし、駿の顔を見ることが出来ない。

私は冷凍庫から、もう一つシチューを取り出し、無言で温め始めた。

「琴音、美味しそうな香りがするな。シチュー食べながら、聞いて欲しい事がある。」


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