振られた私を御曹司が拾ってくれました。
「美味しそうだな、いただきます。」
駿は手を合わせて挨拶をすると、笑顔でスプーンを握った。
熱いシチューに息を吹きかけて、口に入れる。
「やっぱり、美味しいな。優しい味がするよ。」
そして、駿はスプーンをお皿の上に置いて、まっすぐ私を見た。
「琴音…恐らくもう耳に入っていると思うが、僕には親同士が決めた許嫁がいるんだ。」
分かっていることだ。しかし、駿から直接言われると、胸が苦しくなる。
昨日のことを、聞いても良いのだろうか。
「うん。実はね…昨日、見ちゃったんだ、駿がその女性と一緒に車に乗り込むところを、偶然にね。」
「…そうだったんだ。」
「…駿、仕事で帰れないと言ったのは、嘘だよね?その女性と一緒だったんでしょ…別に私に嘘をつく必要ないよ。」
私は、無理に作り笑いをした。たぶん、強張った顔の笑いになっていたと思う。
「琴音、仕事というのは…嘘だけど、彼女と一緒ではないよ。昨日は実家に呼ばれていたんだ。嘘をついて悪かった…ごめん。」
何故か分からないが、涙が溢れてくる。
私が駿に文句を言える立場ではないことも、頭では分かっているのに、気持ちは押さえられない。
「…では、ご実家に泊ったのですか?」