現実主義者の恋愛事情・王子を一時預かりします  レイと綺麗

綺麗は早口で
「ボールが胸に当たったようです。
心臓振とう(しん)の可能性が高いです。
中学校のグランドです。
はい・・AEDですね」

スマホを耳から話すと、
「AEDどこにある?
職員室とか保健室にあるはず」

子どもはよくわからないというように、首を振った。

「レイさん、子どもと一緒に
AED取りに行って!!
あんたの方が足が速い!!
替わるから!!!」

綺麗は王子を押しのけると、
心臓マッサージを続けた。

「保健室!すぐに一緒に行って!!
誰か場所教えてあげて」

王子はすぐに立ち上がると、
子どもたちを見た。
「その場所、教えて!」

子どもうなずくと3~4人、
校舎にむかって走り出した。
王子がすぐにその後を追う。

遠くから救急車のサイレンが、
聞こえて来た。

王子と子どもたちがAEDを
持って来た時とほぼ同時に、

救急車がグランドに入ってきた。
異変を聞きつけて、
子どもたちの親らしき大人が、
バラバラを駆けてくる。

綺麗は冷静に対応していた。

AEDの装置のパッケージを開き、
すぐにパッドを2か所、胸に張った。
ピーっと解析音、
電気ショックの必要なアナウンスが流れる。

綺麗は救急隊員と場所交代をした。

しばらくして
子どもが自発呼吸できるようになったようだ。
すぐにストレッチャーに乗せられた。

「孝、孝!!」
母親らしき女性が駆け込んで来た。
「お母さんですか?」
救急隊員の問いかけに、
大きくうなずいて救急車に乗り込んだ。

バタン

救急車の後部ドアが閉められて、
発進した。

サイレンの音と共に遠ざかっていく。
「良かった・・」

綺麗がへたりこむように
グランドに座り込んだ。

「キレイさん・・大丈夫?」

王子がかがんで、心配げに
覗き込んだ。
「んん、大丈夫・・帰ろう・・」

王子が手を差し伸べてくれた。
綺麗は王子の手をつかんだ。
立ち上がると・・

王子の腕にすがるようにして、
歩き始めた。
ちょっと、やってみたかったのだ。
< 32 / 45 >

この作品をシェア

pagetop