雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「うん、いい出来!」

 私は大きな雪だるまを見て、満足してうなずいた。
 ちょっと歪になっちゃったけど、ニヤリと雪だるまも見返してくれる。

 東京生まれの東京育ちの私には、こんなに雪が積もった景色は新鮮で、女将さんに断って、中庭で雪遊びを始めたのだ。
 付き合わなくていいって言ったのに、進藤まで出てきて、私の雪だるまに手を出そうとするので、断固拒否して、自力で完成させた。

 拗ねた進藤はなにをしているのかと思ったら、縁側近くで、せっせと雪うさぎの大群を作っていた。
 南天の赤い実と緑の葉を使って、どれもとても可愛い表情をしている。悔しい。

(可愛いことしてるんじゃないわよ!)

 私だって!と雪だるまの横に、ちょっと大きめの雪うさぎを作った。
 身体に合わせて大きな眼にしようと、南天の実を複数埋め込んだら、なんだかロボットみたい?

「……なかなか、ユニークだな」

 いつの間にか横に来ていた進藤がボソリとつぶやく。

(くっそー! バカにしてー!)

 腹が立って、雪玉を投げつけた。

「おっ、雪合戦か?」

 進藤が尻尾を振りそうな声で楽しそうに笑うので、「違うわよ!」と否定して、ヤツに近寄った。
 背伸びして首元に腕を回すと、進藤はフリーズした。
 顔が近づく──

 その背中に雪を入れてやった。

「冷たっ!」
「あははっ。ざまーみ!」

 身をよじって雪を出そうとしている進藤から離れて、私は次の作業に取りかかった。
 憧れのアレを作るのだ! 進藤に(かかず)らっている暇はない!

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