雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「なあ、考えた?」

 私の手を取り、親指で甲を撫でながら、いきなり進藤が聞いてくる。
 とても甘い顔。ムカつく。

「なにを?」
「俺を受け入れる理由」

 ああ、その話か。
 さっきまであんなに切羽詰まった顔をしていたのに、もういつも通り可愛らしいわんこ顔で私を見ている。

「わかったわよ」
「ほんとか!?」
「単純なことよ。あんたのアレが好きだから」

 得意げに言うと、進藤が頭を抱えた。
 その姿勢でなにかブツブツ言っている。
 でも、すぐ顔を上げて叫んだ。

「違う! 不正解!」
「なんで、あんたにそんなこと言われないといけないのよ!」

 口を尖らせてヤツを睨む。
 でも、逆に進藤が肩を掴んで、じっと見つめてきた。

「夏希、よ〜く考えるんだ。お前の好きなアレは誰のものだ?」
「そりゃあ、進藤の」
「それが好きってことは?」
「進藤が、す……って、ないない!」

 危ない、危ない。誘導尋問に引っかかるところだった。
 進藤はライバル。それを好きだなんて、ヤツに負けを認めるようなもんだ。
 私が引っかからなかったから、進藤がうなだれた。

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