雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
 吉井ほのか。社内一可愛いと言われる後輩だ。
 確かに今も、進藤と並んで食べている。
 緩やかなウェーブのセミロングに、パッチリした目。長いまつ毛はクルンと上を向いていて、ぽってりとした唇はつや潤だ。とてもキュート。
 そして、その可愛らしい顔で微笑みながら、しきりに進藤に話しかけている。
 ヤツも満更でもなさそうだ。

 と、進藤が私に気づいて、にぱっと笑って手を上げた。
 きゃあと黄色い声があがる。
 
(アイドルか、あんたは!)

 しらっと見返すと、隣りの吉井さんがヤツの視線を追って、私を見た。
 ニコッと笑って会釈をしてくる。
 美男美女ならぬ、可愛い男と可愛い女。
 なんてお似合い。

 私も軽く会釈を返して、視線を食事に戻した。

「ほのかちゃん、可愛いなぁ。あんな可愛い子に迫られたら、進藤が落ちるのも時間の問題だよね〜」
「そうですね」

 実際、進藤には女の子と二人きりになると襲わずにはいられない病気があるから、すぐにくっつくんじゃないかな。
 
(ってことは、来週の手料理はいらないかもしれない。ヤツと私の訳のわからない関係も終わりね)

 そう思うと、心の中がスッキリして、風通しがよくなってスースーする。

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