雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「で、確認したいことって、なに?」

 食事を再開しながら聞いてみると、進藤は顔をしかめた。

「ずいぶん、後藤さんに絡まれていたな」

 単に、私を助けてくれただけだったらしい。
 気の利くヤツめ!
 助かったけど、なんか悔しい。 

「……ありがと」
「どういたしまして」

 仕方なくお礼を言うと、進藤はひそめた眉を緩め、いつものわんこな笑顔に戻った。でも、すぐ今度は心配そうな顔で覗き込んでくる。

「なにか嫌なことを聞かれたのか? 暗い顔をしてる」

 いつも思うけど、表情豊かだなぁ。
 私は割と感情が顔に表れない。もっと愛想よくしろと言われる。そもそも大した感情がないつまらない女。

(あー、ダメだ。超ネガティブモードになってる。やめよう)

 こんな時はなにも考えずにいるのがいい。なにごとも深くは考えない。イージーに考えよう。

「別に、いつものウザ絡みをされただけ」
「大丈夫か? 気をつけろよ?」
「うん」

 進藤はまだなにか言いたそうだったけど、ちらっと時計を見て、溜め息をついた。
 
「時間ないんでしょ? 行きなよ」

 これから週末にかけて、進藤は出張だ。準備もあるはずだ。

「あぁ、悪い」
「私ももうすぐ食べ終わるから、すぐ退散するわ」
「うん、じゃあ、行ってくるわ」
「いってらっしゃい」

 なにげに返したら、進藤はうれしそうに笑った。

「いってきます」

 ただの挨拶なのに、なぜか胸が詰まった。




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