雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
(もう、土曜日なのに、なんで会社の近くまで来ないといけないの! 進藤のヤツ、ムカつく!)

 私は頭の中でぶちぶち文句を言いながら、指定されたファミレスに向かった。

「夏希!」

 噂をすれば、後ろから声をかけてきたのは進藤だった。
 ニコニコと駆け寄ってくる姿はやっぱり柴犬。
 ヤツは人懐こい顔で隣りに並んだ。

「今日はごめんな。夏希の手料理を楽しみにしてたんだけどな〜」
「私は作らなくてラッキーだわ」
「いやいや、なしになってないから!」

 進藤はそう言うけど、私の手料理なんかより、吉井さんに作ってもらえる日が近いんだから、そっちでいいじゃない。
 軽く受け流して、ファミレスに入った。

「進藤さ〜ん、安住さん!」

 先に来ていた吉井さんが四人席で手を振っている。
 とろんとした白のニットワンピースに水色のグラデーションネイルがオシャレだ。
 一方、私はだぼんとしたセーターにジーンズ。パーカーとジーンズ姿の進藤とほぼ一緒だ。
 女子力の違いを見せつけられる。

(別に勝負してないからいいけどね)

「こんにちは」

 挨拶して、吉井さんの向かいに座ると、進藤が横に座ってきた。
 
(なんで? あんたは彼女の隣りでいいでしょ?)

 私たちはドリンクバーを頼んで、それぞれ飲み物を取ってくると、早速テキストを広げた。

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