雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
 翌週の社内は、進藤と吉井さんの噂でもちきりだった。
 吉井さんが進藤の家に行ったらしいという話で、二人の仲は決定的になったというものだった。
 どうやら、あの後、ちゃっかりお持ち帰りしたらしい。

「あ〜あ、ほのかちゃんは進藤に食われちゃったのかな〜?」

 嘆く後藤さんがうざい。
 食われたに決まってる。あの進藤が手を出さないわけないわ。
 食堂でも仲良く並んでご飯を食べていた。

(幸せそうでよかったわね)

 私はそっと目を逸らした。



 そんな進藤と廊下でばったり会った。

「あぁー、お前、こないだは勝手に帰りやがって! あの後、吉井さんが落ち込んじゃって、慰めるのが大変だったんだぞ?」
「いいじゃない。ちゃんと慰められたんでしょ?」
「それはそうだけど」
「じゃあ、いいじゃない。それより、私、忙しいんだけど?」

 なにも変わらない顔をして話しかけてくる進藤にムカついて、私はさっさと席に戻る。
 ムカついている自分にもムカつく。

(吉井さんと付き合い始めたからといって、私と関係あるはずない。なにをムカついてるのかしら?)

 不可解でもやもやして、その原因となる進藤とはなるべく関わりたくないのに、そういう時に限って、一緒に接待に駆り出される。
 と言っても、今回は接待する方じゃなくて、接待される方だから、そこは気が楽だけど。



< 75 / 95 >

この作品をシェア

pagetop