雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「今回のプロジェクトの修正案を考えたのって、安住さんでしょ? すごいなと思って」
「あぁ、あれは私だけじゃなくて、進藤も一緒に考えたものなんです。さらに言うと、地主の笹本さんのアイディアも多分に詰まってて」
「でも、まとめたのは安住さんですよね? やっぱりすごいですよ」
「そんなことないです」

 もう社交辞令だとわかっているのに、そう言われると照れくさくて、ビールをごくりと呑む。
 話題を変えたいけど、変える話題も持ち合わせていなくて、しばらくこの話を続けられた。
 ちらっと進藤の方を見ると、綺麗どころと談笑していて、こちらの会話は聞こえていないようでほっとした。
 だけど、なんとなく居たたまれなくて、ビールが進む。

「そろそろ、飲み物を変えますか?」

 気がつくとビール瓶が空いていて、立石さんにメニューを差し出された。
 
「立石さんはなににしますか?」
「僕は冷えてるから熱燗にしようかな? あ、ヒレ酒がある。これにしよう」
「ヒレ酒?」
「安住さんも呑みます?」
「じゃあ、そうしようかな」

 そういえば、進藤の家で呑んだ甲羅酒は美味しかった。
 それを思い出して、うなずいた。
 今日は頭も冴えているし、全然酔う気がしないし。

「この間、カニの甲羅酒を呑んだんです。それがとても美味しくて……」
「うらやましいです。僕はカニが大好物なんです」
「立石さんも? 私もです! カニが好きで好きで!」

 意外なところに同志を見つけて、テンションが上がる。
 ひとしきりカニ談義で盛り上がった。
 京都の北の方に黄金ガニという超希少なカニがいるらしい。食べてみたい。




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