雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「いやぁ、安住さんがこんなに可愛い人だと思いませんでした。今日は収穫です」
「なに言ってるんですかー。そんなの、はじめて言われました〜!」

 あははと笑って、立石さんの肩を叩く。
 料理もお酒も美味しいし、立石さんは話し上手だし、なかなか楽しい。
 窮屈になってきた上着を脱いで、私たちはすっかりリラックスしてしゃべっていた。

「またまた。嘘ばっかり。こんなに可愛らしいのに、そんなわけないでしょ」
「ほんとーですよ〜。ついこないだも職場のせんぱいにかわいげがないって言われたばかりで。もっとあいそよくしろーとか言われるし」 
「じゃあ、安住さんのこんな笑顔はレアなんですね」
「ふふ、そうなんですかねー」

 一度笑いだしたら止まらなくなり、くすくす笑う。 
 そこに締めのアイスクリームが届く。

「あっ、あいす、うれしい〜」
「よかったら、僕のも食べますか?」
「いいんですかー? たていしさん、すき〜!」

 ニコニコと見上げると、立石さんが眼鏡をくいっと上げた。そして、顔を近づけて、ささやいた。
 
「安住さん、この後、呑み直しませんか?」
「のみなおし……?」

 アイスを食べながら、キョトンと聞き返した時、グイッと肩を引っ張られ、立石さんの顔が遠のいた。

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